第4章
竜の血筋
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少し離れた小高い丘に登り、町を見渡す。
公園の方向から巻き上がる二つの気を感じる。
まだあまり大きくならないうちに事をしなければならない。
優は静かに目を閉じた。
光竜の使うのは幻術。温かな光が流れ出す。その光はゆっくりと広がっていき、町のあちこちへと行き渡る。
「…優ちゃん…」
――光り導く者。
人を惑わす者と言われようとも、それでもその力は温かかった。それは昔から自分の見てきたもの、そのもの。
浅葱は優の背を見つめながら、自然に心が安らぐ気がした。
「ちっ、紫竜のヤツ、どこ行きやがったんだ」
辺りを偵察してくると出掛けた寛也が、舌打ちしながら戻ってきた。
そう言えば雪乃は先程から姿が見えなかった。
「まあいい…」
初めからアテにしていなかったのだと、小さくつぶやく寛也。
そして、優の様子に目をやる。
「寛也さんは行かないんですか?」
血の気の多い寛也がおとなしくしていることを不審に思い、浅葱は恐る恐る聞いてみる。
その浅葱に寛也は短く肯定の意を示し、次第に膨れ上がる気に目を向ける。
「それにしても、すごいですね。危うく吹き飛ばされるところでした」
「俺も吹き飛ばされたんだよ。それなのにあいつ、一瞬のうちに俺達を守るための結界まで張りやがった」
寛也の言うのは翔のことだった。
自分が何のすべも無い一瞬間に、翔は防御壁を作って衝撃を緩和させた。その実力に、寛也は苦い顔を見せる。
「なんてヤツだ。前に戦った時より、数段、力が増してやがる」
「この勝負、天竜王の勝ちだな」
冷静に町を見下ろしていた優が、ポツリとつぶやいた。
* * *
翔は一歩も動いていなかった。息ひとつ切らすでもなく。しかしそれは紗和も同じだった。
紗和は、ぶつかり合う気の力を一瞬ゆるめる。
次の瞬間、両の手の平から出されたのは幾つもの細い風の矢だった。
翔はそれをよけることもせず、防御壁を張る。
矢は翔の脇にすべて逸れて、地に突き刺さった。
力の十分の一も出していない戦いだが、それでも相手の実力は分かる。
「それが、自信?」
紗和は攻撃の手を止め、翔に尋ねる。