第4章
竜の血筋
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優は、すぐ横に立っていた浅葱がつつくのを鬱陶しそうに手で払う。言われなくても分かっていると。
「正直な話、関わりたくない、だな」
「おいっ」
寛也が慌てる。
「父竜相手じゃ、俺は大した戦力にはならないだろ。だけどこいつが関わっているし、それに、まだ封印は解かれていないだろ」
「半覚醒でも彼の力は絶大だった。この僕でも太刀打ちできないくらいにね」
「だからって、あっさりと敵に寝返るか、お前」
寛也が口を挟むのを、紗和はひと睨みする。
「僕は彼と話をしているんだけど」
その、温厚な表情の下の冷たいまなざしに、寛也は一瞬たじろぐが、そんなことをおくびにも出さず、舌打ちして引き下がる。
「僕は、君達を殺したくない。勾玉の封印は幾千年前の綺羅の施したもの。もう効力は薄れてきているんだよ」
「そんなことはありませんよ」
今度は浅葱が口を挟む。
「僕は確かに勾玉の力を感じます」
「ごくごく薄いものをね。最も強い力を持っていた黄玉が壊れているんだろ?」
すんなりと言い当てる紗和に驚きを隠せない浅葱。その表情を素早く読み取る。
「それ程に簡単に、他の勾玉も破壊できるってことだよ。父竜の完全復活もそう遠いことじゃない。そうなれば誰も生き延びれないよ」
いくら黙っていようと思っても、つい口を出してしまう寛也がまた怒鳴る。
「お前の言ってるのはみんな仮想ばかりじゃないか。何一つ現実を見てねぇんだよっ」
「仮想ね。近未来に起こり得る最も確率の高い現実だと思うけど」
「違うだろっ! 勾玉は俺達が守ってるんだ。壊れるわけはない」
「そうかな」
「お前なっ!」
「ヒロ兄」
いちいち怒鳴ってうるさい寛也を、翔が静かな声で止める。渋々寛也は身を引く。
それを確認して、翔は紗和に向く。
「もういいでしょう。行って下さい、新堂さん。僕たちは意志を変えるつもりはありませんから」
まっすぐに見返してくる翔の瞳に、紗和は小さくため息をつく。
「分かった、帰るよ。だけど」
紗和は次の瞬間、その表情から温和な色を消す。
「僕にもメンツという物があってね。ここまで来て誰一人として説得できませんでしたじゃ、戻れないんだよ」
「えっ?」