第3章
償い
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「それで、僕にあみやを取り返せって?」
「手に入れたいんでしょ?」
「何か勘違いしてない? あみやを殺したのはこの僕だよ。今更抜け殻に興味はないよ」
「何ですって?」
茅晶は翔に詰め寄ろうとして、翔の気の大きさに思い止どまる。
「器が大きくても中身が小さければ何にもならない。その逆もしかり。あみやの身体を手に入れても、封印の術が使えなければただのお人形さ。勿論、あれはあみやなんかじゃない」
「…杳くんは魂を呼び寄せるんだって言ったわ。貴方にはそれができるんじゃないの?」
「さてね」
出来るかもしれないが、するつもりなどなかった。
「貴方のあみやへの思いは、本当に殺意で終わってしまったの?」
「そうだよ。あみやは死んだ。もう…生まれ変わっていても、別の人生を歩んでいるから…僕はその人のことをあみやとは呼ばない。そう思わないことにしている」
真っすぐ見返してくる翔の目に、ためらいはなかった。
「君はまだ、あみやに会いたいの?」
ふと、翔の口調が柔らかくなる。
「あっ、当たり前でしょ」
「そっか…」
翔は茅晶から視線を逸らし、窓の外に目を向ける。
「竜達が全員目覚めて、巫女達も転生をした。だのに、何故あみやだけがここにいないんだろうね」
「…何を言ってるの? あみやは…」
「望んでいないんだよ、きっと。あみやであることを望んでいないんだ」
天竜王が最も慈しんでいた少女。彼は、何故殺すことができたのか。ずっとずっと不思議だった。聞いてみたかった。
「君はこれからどうするつもり? あみやを追うの?」
「父竜があみやをどう扱うかによるわね」
「きっとろくな扱いはしないよ。生き返ったって聞いたけど、中身は別人だろうから」
翔は出口に向かって歩き始めた。茅晶もそれを追う。
病院の外は初夏のような日差しで、暑いくらいだった。
「ね、もうひとつの剣は貴方の元に返ったの?」
「封じられていた剣のこと?」
茅晶が持っていたが、二年前に地竜王の封印が解かれると同時に彼女の手から消えてしまったものだった。その剣の気配は、あの奈良での一件の後、杳の中に感じていたのだが。