第3章
償い
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「それが、何か関係あるわけ?」
「あみやを刺した剣よ」
「あみやの血を吸った剣だね。封印が解けたのなら、本来持つべき者の所へ返ったんだろうね」
「本来持つべき者? それって、貴方のことじゃないの?」

 ピタリと翔は歩みを止める。

「情報提供はここまでだよ。あみやを取り返すなら早く行けば?」

 あまり聞いて欲しくないことだと気づいて、茅晶仕方なく諦める。これ以上あみやのことを聞いても翔は答えないだろう。その代わりに、気になっていた別のことを話題にする。

「じゃあ最後に一つだけ教えて。杳くんは本当に普通の人間?」

 じろりと、翔は茅晶を睨む。

「それ以外の何に見える?」
「化け物」
「君に言われる筋合いはないね。小鬼の分際で」
「何…ですって?」
「…まあ、これだけ周囲に竜神が揃えば普通の人間でも少しばかりの影響は受けるんじゃないかな」

 もっともらしい、つまらない回答に茅晶は鼻で笑って返す。

「ま、どうでもいいわ。今更」
「そうだね」
「杳くんに伝えておいて。こんなので貸しを作ったなんて思わないでって。それから、あみやは渡さないって」
「ご自由に」

 茅晶は翔の答えに、ふんっと鼻先で返す。そしてそのまま行ってしまった。

 その後ろ姿を黙って見送る翔に、影が近づく。

「随分と強気だね」

 浅葱だった。

 杳の傷が刃物の傷だったので危うく警察ざたになるところを、巧くかわすことができたのは彼の尽力によるものだった。

「そうでもないよ。これでも杳兄さんのことはちょっとは応えてるんだけど」

 怪我の話を聞いた途端、後先考えずにすっ飛んで行ったと、電話口で碧海が呆れていたのを思い出して、浅葱はつい口元が緩む。

「本当、無茶な人だよね」
「かと言って、首に縄でもつけておくわけにはいかないし」
「そんなことをしたら本気で敵に寝返るね、あの人は」

 二人揃って同意見なのがつらかった。

「ところで、翔くん。本当は知ってるんじゃない? 君の双頭剣のもう一方がどこにあるのか」
「…さあね、どこかにあるらしいっていうのは分かるけどね」
「そうなんだ?」

 その横顔には真意を計り兼ねたが、浅葱はそれ以上聞こうとは思わなかった。

「さて、帰ろうか。叔母さんに見つかるとうるさいから、今のうちに。みんな待ってるし」
「杳さんは?」
「しばらく大人しくしておいてもらうよ。いい薬だ」

 やれやれと、浅葱が肩をすぼめるのを見て、翔は笑った。

 杳が誰かなんてことは問題ではなかった。

 今、自分の側にいてくれる人がたまたまそうだっだけのことだった。

 ずっと昔の、その昔の懐かしい魂を持った人――。





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