第3章
償い
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「誰とだ? 静川の妹とだったら、こっちから願い下げだからな」

 部屋の隅で本を読んでいた雪乃が煩そうにこちらを見たが、何も言わずにまたすぐに読書に戻る。

「はぐらかすなよ。杳に決まってるだろ?」

 嫌なことを聞いてくるものだと思った。何もこんな時に聞かなくても良いものを。それよりも、どうしてそんなことを知っているのか。

 寛也は接続が悪いのかとアンテナの差し込み口をいじりながら、根限り平静な声を作る。

「杳? あいつには翔がいるだろ? こっちのことも考えずにすっ飛んで行った俺達の大将が」

 寛也の言葉に露は、少し憮然とした口調で返してくる。

「お前は転生しても相変わらずドンカンだよな。ま、雛じゃ、しょうがないんだけど」

 それは寛也を煽るような言い方で、思わずムッとしてしまう。

「成竜になら、なった。竜体も一回りくらいデカくなった。雛じゃねぇよ」
「へぇ、その割りには色々なとこ、小さいままじゃん」
「お前なぁ」

 寛也はテレビをいじる手を止めて、振り向き様に立ち上がる。

「立てよ。どっちがデカいと思ってんだ。比べてみろ」

 見下ろす露は寛也の言葉に応じず、畳の上に胡座をかいたまま寛也を見上げて面白そうに返してきた。

「ナニを比べるって? 言っとくけど、オレ、経験値、高いよ」
「何の経験値だよ」

 丁度そこへタイミング良くも潤也が登場した。手にしているのは大学の教材だろうか、分厚い本を抱えていた。

 その潤也は呆れたように二人を見比べる。

「先に言っておくけど、結界内で取っ組み合いは絶対禁止だよ。ヒロも簡単に挑発に乗らない。水穂くんは暇だからヒロをからかって楽しんでるだけなんだから」

 ペロリと舌を出す露に、寛也は舌打ちする。

「水穂くんもヒロで遊ぶの、やめてよね。食い付きが良いから楽しいのは分かるけど」

 言われて露は肩をすくめる。

「別に遊んでないし。ただの牽制」
「え?」
「オレ、杳、狙ってるから」

 さらりと言った露の言葉に、寛也も潤也も一瞬言葉を失う。本当なのか冗談なのか、その表情からは読み取れなかった。

 そんな二人に、露はニヤリと笑う。

「そう言うことだから。結崎が付き合ってないって言うなら、遠慮はいらないよな?」

 寛也は息を吸い込んで言い返そうとするが、その言葉を飲み込んだ。

 ――もう、終わりにしようよ。

 杳がこの先誰を選ぶか、もう自分は口出しできる立場ではないのだ。

「勝手にしろ」

 寛也は飲み込んだ言葉の代わりに、握りこぶしして、吐き出すように言った。そして、再びテレビのアンテナに向かう。

 その寛也の背に聞こえる声。

「なぁ、凪。取っ組み合いの喧嘩は禁止でも、レンアイは自由だよな?」
「共同生活なんだから、禁止に決まってるだろ。杳の部屋に近づくのも禁止。一緒に入浴なんてのも絶対に誰にもさせないから、覚えておいて」

 潤也の口調が次第にきつくなるのを聞きながら、寛也はため息すらも飲み込んだ。


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