第3章
償い
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「ヒロ、どうかしたの?」
考え込んでしまった寛也は、潤也に声をかけられて我に返る。
見ると、潤也だけではなく、他の者まで寛也の方を見ていたので、慌てて返す。
「ま、今日は元気そうだったし、浅葱もいるから無茶なこともしないだろうしな。腹が減ったら、そのうち帰って来るさ」
そう言って、寛也は汁碗に手を伸ばした。
今の言葉はそっくりそのまま自分に言い聞かせたようなものだった。
そんな寛也に、潤也はしばらく視線を向けていたが、すぐに何事もなかったように食事を始めた。
そうだねと、小さく相槌を打って。
と、その時だった。かすかに携帯電話のバイブレーション音が聞こえた。
「ちょっと、ごめん」
言って立ち上がったのは、潤也だった。
シャツの胸ポケットから携帯電話を取り出しながら、廊下へ出て襖を閉めた。
途端に聞こえてきたのは、驚きの声だった。
「杳が大怪我ーっ!?」
和やかだった食事現場が、一瞬にして騒然となった。
箸を置いて一番に襖を開けたのは、すぐ近くに座していた翔だった。有無を言わせず、潤也の携帯電話を奪い取った。
「今、どこにいるの? 大怪我って、どんな具合?」
つい先程までの黙して語らずの態度が一変してしまっていた。
「K医大病院? 分かった、すぐ行くから」
短く言葉を交わして、翔はすぐに携帯電話を潤也に返した。
「すみません。健康保険証がいるようなんですけど、うちへ連絡してもらっていいですか? 僕、先に行きますから」
それだけ言った途端、翔の姿は文字通りかき消えた。
「ええーっ!?」
それはまるでテレビの合成画像のように、翔は一瞬でその場からいなくなってしまった。
聞かされて、知っていたこととは言え、目の前で起こった超常現象に、驚きの様子をあらわにするのは碧海達。杳が怪我をしたと聞いた時よりも、目の前のあり得ない現象に目を丸くしていた。
そんな連中は放っておいて、潤也はもう一度携帯電話を耳に当てる。
「それで浅葱、杳の具合はどうなの? 癒しの術より効果的な特効薬があるけど、要りそう?」
潤也はチラリと寛也を見やる。
「あ、うん、そう? 分かった。じゃ、杳の家に連絡しておくから、悪いけど、家の人が行くまでそっちにいてくれる? よろしく頼むよ」
それだけ言って、潤也は電話を切った。