第3章
償い
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「あいつら、まだ戻って来てねぇのか…」
座卓に並べられた食事は、二人分余ったままだった。杳と浅葱の分だと思えた。
寛也達が雪乃と合流して露を仲間に加えて帰ってきたのは、丁度昼を回ったばかりだった。
数えて11人分の食事が並ぶのを見て、一体誰がこの食費を払っているのかと考えてしまう。
「うん…」
寛也の呟きに潤也がうなずいて、自分も席につく。
「浅葱の携帯のGPSだと…多分、吉備路方面に行ってるようだよ」
「吉備路? 何があるんだ、そこ」
寛也はそんな二人を待っていられないとばかりに、先に箸を取り、まず厚焼き卵に箸を突き刺す。
誰が作ったものか、形は崩れていて、多少焦げ気味ではあったが、食べれればそれでいいと思う寛也は、気にもせずに口に運ぶ。
「名が知られている所では、備中国分寺の五重の塔とか、古墳群とか」
「こふんー?」
杳がそんなものに興味があったとは聞いたことがないので、寛也には目的が思いつかなかった。
眉をしかめる寛也に、潤也は落ち着いた声で言う。
「中央の…竜王の宮があったのは、あの辺りなんだよ」
茶碗に口を付けてご飯をかきこんでいた寛也は、その潤也の言葉に、口の中に入れたものを思わず吹きこぼしてしまった。
「ああーっ、もうっ、汚いなぁ」
正面に座っていた潤也は、寛也のばらまいたものを嫌そうに払う。寛也は米粒が気管に入ってしまったらしく、げほごほと何度も咳き込んだ。
周囲にいた仲間達は、見て見ぬふりをしてくれていた。
「あいつ、そんな所に何の用があって…」
ひとしきり咳き込んでから呟く寛也は、もやもやした気持ちが強くなる。
杳があみやだと思えば思う度に、いつも込み上げてくるやるせない気持ち。
あみやは竜王の宮の巫女だったのだ。
天竜王と地竜王の二人の竜王が治める宮の、寛也には手が出せない所に住まう巫女なのだ。
本来は自分の傍らにいる者ではなく、竜王の――翔の側にいるべき人間なのだと、思い出さずにはいられない。
そんな所へ、杳が自ら進んで行くと言うことは、寛也にとって余り歓迎したくない出来事である。そう考えてから、軽く頭を振る。
――もう、終わりにしようよ。
昨日の杳の言葉が思い浮かんだ。
あの言葉が杳の真意なのだとしたら、杳は本気で寛也から離れるつもりなのだ。
こんなにも、杳への思いは深くなってしまったのに。どうしようもないくらいに。