第3章
償い
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「一足遅かったみたいだよ…あれは父竜の手の者…」
粗い息でそう言う杳は、何とか自力で起き上がろうとするが、すぐに崩れる。
それを抱きとめるのは茅晶。
「杳さん、動かない方がいいです。僕、人を呼んで来ますから」
「これくらい、何とも…」
激痛に眉を寄せて、それでも平気な表情を浮かべようとする。
「無茶はしないで下さい。杳さんに何かあったら切れる人が何人いるやら。知りませんよ」
「ばかっ」
冗談めかして言って、浅葱は茅晶に杳のことを任せて飛び出して行った。
浅葱が出て行くのを見送って、茅晶は傷を負った杳を見下ろしながら声をかける。
「死ぬわよ、杳くん」
感情を込めずに言う。
「何言ってんだよ」
これ程の出血で、傷も深い。
例えすぐに病院へ運んでも助からないと、一目で分かる。
自分なんかを庇って死ぬなんて、お笑いだと茅晶は思った。
「何か言い残すことは?」
「あるわけないだろ」
「何で庇ったりしたのよ。私、死んでもすぐに生まれ変われるのよ」
「みたい…だな」
「傷、深いわよ」
「だけど…まだ死ねないんだよ、オレは」
「出血多量ね」
「応急処置してやろうなんて、思わないわけ?」
「誰がっ」
「そっか…」
地面に横たわったまま、杳はそのまま目を閉じた。
茅晶の腕の中で、杳の身から、ゆらりと気が立ち上った。
何が起こったのかと思った瞬間、杳の全身が鋭い熱を帯びる。
茅晶は反射的に杳から飛びのいた。
見ると、薄い人肌色の光が杳の全身を包んでいた。それが、薄い闇の中で金色に光って見えた。
その光に包まれて、杳の身体がわずかに宙に浮きあがった。
「何…なの…?」
ふと、洞窟の隅で赤く明滅するものが、茅晶の目に映った。
それは先程浅葱が投げた勾玉。まるで杳の身の内から出る光と共鳴するかのように思えた。
どちらともにも近づけない茅晶は、成り行きを見守るしかなかった。
どうしようもなく見守る茅晶の前で、やがて光は薄れ、杳はそのまま地に伏した。
荒い息は変わらなかったが、幾分穏やかなってように思えた。
茅晶は恐る恐る近づいて、信じられないものを見るように杳を見降ろした。
その視線の先にある杳の背は、未だ赤い血に染まっているが、裂かれたシャツの間に覗く傷口が塞がりかけているのだった。
「杳くん、あなたは…」
茅晶はただ呆然と見下ろしていた。