第3章
償い
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と、その間に割って入るのは茅晶。
「あんまり近づかないでくれる? 貴方、一応、男なんだから」
「…一応ー?」
自分のことは棚に上げて、浅葱はぷっと吹き出していた。
「あみやは神聖な巫女よ。近づいていいのは竜達だけだった」
その時だった。杳の目に信じられない光景が映った。
通せんぼをする茅晶の肩の向こうに、台座に横たわる死んだはずのものが動いたのだった。
「うそっ!」
声を漏らしたのは浅葱。
それはゆっくりと起き上がったかと思うと、顔をこちらに向けた。
薄明かりに、冷たく笑う白い顔が浮かぶ。
そして、その手に握られていたもの。
それは素早い動きで台座から飛び降り、その手に光る短剣を背を向けている茅晶目がけて振り下ろした。
「茅晶っ!」
とっさのことだった。
異様な殺気に茅晶が振り返って避けるよりも、剣の動きの方が素早かった。逃げ切れないと悟った。
その瞬間、茅晶は肩を捕らえられ、床に転がった。
したたかに背を打ち付け、そのままころころと地面を転がる。
「杳さんっ!」
浅葱の、杳を呼ぶ声が聞こえた。
暖かい体温を感じて顔を上げ、茅晶は杳が抱き抱えるようにしてかばってくれたのだと知る。
それと同時に、ねっとりとしたものを手のひらに感じる。
見やると、赤く血に濡れていた。
杳が起き上がろうとするが、粗い息をついてそのままうずくまる。
その肩から背にかけて、ぱっくりと傷が開き、血が流れ出ているのが目に留まる。
狭い洞窟の壁に飛び散る血飛沫。そして、その中に立つ白い顔をした少女。
「…こんなことって…」
血に染まった少女は、手にした剣を再び振り上げようとする。
呆然とする茅晶の目の前、その手元目がけて何かが飛んできた。それが当たった弾みで短剣は地面に転がった。
少女は素早く拾おうとして、自分の手が赤黒く負傷しているのに気づく。
投げられたのは、浅葱の持っていた勾玉だった。
「勾玉で巫女が傷つくわけないよね。君は魔の物だね」
浅葱の言葉に彼を恨めしそうに睨んだあと、彼女はそのまま入り口から飛び出していった。
「待てよっ!」
浅葱は追いかけようとする。が、杳の制止の声が聞こえた。
振り返ると血の海だった。
一瞬、浅葱の身体に震えが走る。