第3章
償い
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 連れて行かれた所は、木々に覆われ、蔓に隠された洞窟だった。

 人があまり近づかない所に独自の結界を張って、何物も寄せ付けないようにしていた。

「見つけたのは本当は何代も前よ。私は何度も転生を繰り返してきた。ずっとずっとあみやを守ってきた。誰にも触れさせないために」

 奥へと案内をしながら、茅晶はぽつりぽつりと語った。

 洞窟の中は光苔でも生えているのか、不思議と明るかった。

「いつかきっともう一度会えると信じて、どれくらい時が経ったのかしらね」
「2300年」

 杳が身も蓋も無く、数字を上げる。

「信じられないくらい気が長いわよね。もっと早くに気づけばよかったのにね。私ってバカかも。あみやは土に返してあげるべきだったのよね」

 三人は洞窟の奥へとたどり着く。

 行き止まりになっているその壁の一角に、茅晶は手を触れる。どういう仕組みになっているのか、ゆっくりと壁が動き出した。

 静かに、地響きをたてることもなく。

 その奥に小部屋が現れた。

 茅晶はちらりと二人に視線を送り、先に黙って中へ入っていった。

 杳と浅葱も一歩遅れてそれに続く。

 中には台座のようなものがあった。その上に、少女が一人横たわっていた。

「あみや…」

 それは、昔のままの姿だった。

 白い巫女の衣を身に纏い、長い黒髪、白い肌の少女。しかし血の気の失せたそれは、確かに命のないことを示していた。

 地竜王の封印の力とは、こんなにも自然を歪めてしまう程のものなのだろう。長き時を朽ちることもなく、あの時のままの姿のあみやがそこにいたのだった。

 確かに二年前に地竜王の封印は解けてしまっている。二年もあれば十分骨だけになり得るものを、不思議としか言いようがなかった。

 ふと、吸い寄せられるように、杳が動いた。ドキッとして、浅葱が呼び止める。

「杳さんっ」
「えっ?」

 振り返る杳はいつもの表情。

「あ、ごめんなさい。何か、取り付かれそうな気がして」
「大丈夫だよ、何ともないから」

 この人と一緒にいるとどうも心配症になってしまうのだと、浅葱は自分に言い訳をする。

 それから改めて、杳はゆっくりと近づいていった。


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