第3章
償い
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それと供に先程の茅晶が茂みの中から姿を現し、素早く下草をかき分け、杳に歩み寄る。
「だめよ、そんな…そんなこと、させられる訳ないでしょ?」
「決めるのはあんたじゃないだろ、『あみや』自身だ」
杳は冷めた表情のまま答える。
「だめよっ! どうしてなのよ? 他の時代にもたくさんの巫女達がいたわ。神官もいた。それなのに、あみやがそんな重責を負う必要なんてないわ。静かに眠らせてあげればいいじゃないの?」
「あみやは、現存する、『綺羅』に最も近い肉体だからだよ」
「きら…?」
「竜達の末子で、人として生まれた忌むべき子。あみやはその綺羅の子孫だから。地竜王の封印は運が良かったのかも知れない」
「そんなの…」
「まだ腐食していないんだろ。使えないっていうんならダメだけど、死んだ時のままで、傷の修復と内蔵を動かせば何とかなるんなら…」
パシンと、平手が鳴った。茅晶の右手が杳の頬を打った。
「物じゃないのよ。どうしてそんなことが言えるの? どうして、平気な顔してそんなこと言うのよ?」
ポロリと茅晶の頬を流れるもの。それには、さすがの杳も動揺を表す。
「彼女の言う通りですよ。それに、言っている杳さんが一番つらいでしょ?」
浅葱は二人の間に入り、茅晶の手を収めさせた。
「他の方法を考えましょう。あみやの肉体に頼らなくても、こっちにはまだ勾玉があるわけですし、父竜の復活も不完全ですから、きっと何とかなりますよ」
「…ならないから…だから…」
「巫女の、綺羅の血がついえたのは杳さんのせいじゃないですよ。竜達と一緒に僕達もこの時代に生まれ変わったってことは、今の僕達自身が必要だったんです。だからもしあみやが必要なのだとしたら、杳さん自身、ここにいる筈ないじゃないですか」
また説教だと言われそうな気がしたが、浅葱はそのまま続けた。
「心配いりませんよ。翔くん達が守ってくれますから。あみやの大好きだったこの大地も、空も、全ての生き物も」
「オレはね、そんなこと、どうでも…」
「分かっていますって」
本当は何も分かっていないのかも知れないが。
「杳さんは責任を取りたいだけなんでしょ? そんなの、一度聞けば十分です。でもね、杳さん、僕達はあみやが死んだ理由がどうあれ、あなたがいなかったら、彼らに与(くみ)するつもりはまったくありませんでしたから。たとえ父竜に殺されてでもね」
「…勝手に言ってろよ」
杳は返す言葉に困った様に、顔を逸らす。
「はい、じゃあ帰りましょう。あみやには会わない方がいいですよ」
そう言って浅葱は杳の腕を取った。杳は抵抗するでもなくそれに従う。
その二人の後ろ姿を見送りながら、茅晶は少し考えてからその背に声をかけた。
「待ちなさいよ」
二人に駆け寄る茅晶。
茅晶は何を思ったのか、視線を逸らす杳の前方に回り込み、こう言った。
「連れて言ってあげるわ。あみやの所へ」
驚く杳を睨むように見て。
* * *