第3章
償い
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そこに一人の少女が立っていた。長いストレートヘアが腰まで伸びる美少女だった。
「来ると思ってた。やっぱり来たわね、杳くん」
「茅晶…どうして…」
杳は驚いて彼女を見やる。
それはかつて翔を憎む鬼の化身として杳の前に現れた少女だった。
杳自身、命を狙われたこともあった。手を結んだこともあったが。
そして、最後には翔が記憶を封じた筈だったのに。
「驚いた? 待っていたのよ。この場所にあなたならたどり着くだろうと思ってた」
ゆっくり歩いてくるその手にはもう竜王の剣はなかった。
「竜剣が何故竜王とは別の場所に存在していたのか。それは別の場所に封印していたため。もう一人の竜王が、あみやと供に封印を施したため。だから竜剣が個として存在することは、あみやもここに眠る可能性がある。生身のまま…」
茅晶の言葉に、浅葱は驚愕して杳を見やる。
ここまでやってきた目的がそんなことだとは、思いも寄らなかったのだった。
「分かっているなら話が早い。案内してよ」
「あなたを?」
「父竜が復活している。奴を封じることのできるのは…」
「何を言ってるのっ。あなた、まだあんな連中に関わってるの?」
待っていたと言いながら、茅晶は応じない。
「それとも、竜王の命令? もうあみやは死んだわ。もう関わらせたくない。あなたも、関わらないで」
「そうはいかないよ。案内してもらえないんなら、自分で捜す」
「ちょっと待ってよ」
杳は茅晶を放ってそのまま行こうとする。
それを止める茅晶に、浅葱が割り込む。
「僕達は竜の宮の巫女の転生者です。僕達には巫女としての使命があるんです」
「何が使命よ、笑わせないで。そんな時代、もう終わったわ」
「終わってませんよ、何一つとして」
浅葱はこの少女が何者かは知らないが、今までの言動からして自分たちとの関わりを持つものだとは知れた。
「竜王を含め、全ての竜達が復活した。父竜が復活した。そして僕達も転生した。残らずね。あの時代のままなんだ。何もかも。あの時代からごっそり現代にすり替わっただけ。何も、何一つとして終わってないんだ。まだ続いているんだよ」
「何言ってるの。そんなもの、貴方達の勝手にすればいいわ。あみやだけは、そっとしておいてよ」
その言葉に浅葱は杳を見る。が、杳は無表情な横顔を浅葱に向けるだけだった。
「放っておけばいいよ。先、行くよ」
「あっ、杳さんっ」
背を向ける杳の後を、慌てて浅葱は追った。
* * *