第3章
償い
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「抜け出しただと?」
寛也が驚いて大きな声を上げた。
杳と浅葱の二人が、こっそり結界内から抜け出したのだ。
昨日の今日で、何も言ってくれなかったことに、寛也は失望すら沸き起こる。
その横で大きくため息をつくのは翔だった。彼にも当然、内緒だったのだろう。
「やってくれたね、杳兄さん」
杳と浅葱をかばっていたのは、残った碧海達三人だった。何とかばれないようにごまかしていたのだが、ばれないはずはなかった。あっと言う間に発覚してしまったのだ。
「手分けして捜そうか?」
「いいえ、それよりも雪乃さんの方が先でしょう。潤也さんは結界を守っていて下さい。静川さんは一応、待機をお願いします」
潤也は意外そうな表情を向ける。が、自分にも役目があるのだと、うなずいた。
「ヒロ兄、いいですね?」
黙したままの寛也に、翔が声をかける。すぐにでも追いかけて行くとでも思ったのだろう。しかし、寛也はそんな素振りすら見せなかった。
「ああ…」
低く返して、寛也は先に座を立った。
翔はその背をちらりと見やってから、碧海達に目を向ける。
「みんなは大人しくしていてください」
言われて気まずそうに顔を見合わせた。
「じゃ、急いで行ってきます」
小さくため息をついて、翔も立ち上がった。そして寛也を追いかけた。
* * *
「あら、本当に来たのね」
指定された時間通りに行くと、雪乃は寛也にそう言い放った。人を見下したような口調にムッとする。
「来いと言っただろ」
「それにしても、よっぽど切羽詰まっているみたいね。竜王自らお出ましとは」
雪乃は、寛也の隣に立つ、見覚えのある少年をおもしろそうに見やる。
二年ぶりの再会だった。
もう会うつもりなど無かったのだが、相手から訪ねてくるとは夢にも思わなかったのだむう。
「こちらも陣を固めないといけませんから。それでは案内をお願いします」
早口にそう言う翔も、もしかすると余り会いたくないと思っていたのかも知れない。過去の、苦い経験であった。
「少し、ゆっくりして行ったら?」
「本当は一刻を争うんです」
相変わらずだと、雪乃は小さく呟いた。
「で、誰から行きましょうか?」
「当然、戦力になる順です。水穂くん」
「ミズホ…ああ、石竜ね」
雪乃は生意気盛りの少年を思い出す。どうして竜供にはろくな男がいないのかと、ちらりと寛也を見やって思うのだった。
* * *