第3章
償い
-2-
1/11
「杳さんっ」
翌日の朝早くのことだった。
杳が忍び足で廊下を歩いていたら、背後からドタドタと足音も高らかに駆け寄ってくる集団があった。
浅葱達、例の4人だった。
朝から潤也に特訓してもらうのだと、朝食の時に言っていた筈なのだが、どうしてここにいるのか。
「杳さん、ここを出るって本当ですか?」
杳に追いつくと、代表してそう聞いてきたのは浅葱だった。
「耳が早いな。誰にも内緒にしてたんだけど」
「朝寝坊な杳さんが、朝早くから布団を畳んでいるのを見たら、普通、何かあるって思うよな」
ボソリと呟くのは碧海。その口をつまみ上げる杳。
「どういう意味?」
慌てて浅葱が止めに入った。
女の子達二人はおもしろそうに見やっているだけだった。
「それで、外へ出て、何か目的があるんでしょ? 僕らも一緒に行きますよ」
「はぁ?」
「ボディガードです」
「そう言うことは、自分で自分の身を守れるようになってから言って欲しいよな」
杳はそう言って浅葱の額をつつく。
浅葱は言い返せずに、言葉を詰まらせた。その通りなのではあるが。
「でも危険だわ。今、ひとりで出歩くなんて。一体どこへ行こうって言うの?」
次は百合子が問い詰める。
その言葉に杳は鬱陶しそうに返す。
「別に。ちょっとね」
「歯切れ悪いなぁ。こういう時は人間、ろくな事を考えてないんだぜ」
そう言ったのは懲りない碧海だった。その場で、杳に口の端を両側から引っ張られる。
それを横目に、もう碧海を助ける気にもならなくなったらしい浅葱が言う。
「どちらにしても勝手な行動は謹むべきです」
「みんなには関係ないことだよ」
「関係なくはありませんよ。杳さんは僕達の仲間だから。どうしても行くと言うのなら、勝手について行きます」
強い口調で言う浅葱をにらむ杳。
「邪魔だって言ってんの、分からない? 付いてくるな」
「じゃあ、ここで大声出してもいいですか? 杳さんが逃亡しようとしてるって」
「…浅葱、性格悪い」
「そうですか?」
さらりと返す浅葱は、杳の表情に勝利したことを知る。
結局、杳は不承不承、折れるしかなかった。
* * *