第3章
償い
-1-

11/11


「何で俺に相談してくれねぇんだ? 俺はそんなに頼りねぇか?」
「違うよ、ヒロ。そんなんじゃ…」
「だったら、どうして黙ってた? な、杳、本当のこと言えよ。俺じゃ、役不足か? お前の楯にもなってやれねぇか?」

 杳は寛也の言葉にゆっくり顔を上げる。

「ヒロに楯になって欲しいなんて、一度も思ったことないよ」

 そう、はっきりとした口調で告げる。

「じゃあ、お前の側にいる意味なんてねぇじゃねぇか」
「どうして、そんな…」

 言いかけて、杳は口を閉じる。思い当たる節があるのだろうか。

「…そうだよな。俺じゃなくても、ジュンや翔にも守ってもらえるしな。平気だよな」

 自分で何を口走っているのか分からなくなってしまった。こんなことを言いたいのではないのに。

 気持ちの一方通行を感じることは今まで何度もあった。しかし、そんなことはないのだと、その度に自分に言い聞かせて、杳のことを信じてきた。

 誰よりも、誰よりも強い思いで。

 今それを覆してはならないのだと分かってはいるのだが、何故か止められなかった。

 いつかも、こんなことがなかっただろうか。嫌な記憶が頭の隅をかすめる。

「…平気じゃ、ないんだけど」

 呟く言葉にハッとして見やると、杳は寛也から目を逸らしたまま。

「中途半端が嫌なら…もう、終わりにしようよ」

 淡々とした声でそう告げる横顔は無表情で、何でもないことのように見えた。

「じゃあね」

 呟くように言って、背を向ける杳。

 違うと、言おうとした。

 そんなことを望んでいるのではなくて、ただ、杳に信じてもらいたかった。頼ってもらいたかった。それだけなのに。

 追いかけようとして、その前に、寛也の脇を駆け抜けていく影に追い抜かれた。

「杳さんっ。もうっ、どこに行ったのかと思ったら」

 言うなり、杳の腕に元気良く絡み付いていったのは、つい先程まで潤也に術を教わっていたうちの一人、美奈だった。

「潤也さんがプリンを作ってくれたんですって。夕食まで時間がかかるから、おやつに食べていいよって」
「オレ、いらない」
「えーっ、えーっ、えーっ、きっと美味しいのにー」

 にぎやかな声に、寛也は背を向ける。どうしても一緒に騒ぐ気持ちが起こらなかった。

 美奈に気づかれないように、その場を離れる。

 これが、杳と親しく言葉を交わす最後になるとは、思いもよらずに。





<< 目次 >>