第3章
償い
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「それで、杳さんはこれからどうするつもりなんですか? 黙って成り行きを見守っているって性でもないでしょう」

 浅葱が聞いてくるのを杳は腕組みをして考える風を見せる。

「そうだなぁ」
「あたし、お手伝いしますっ!」

 杳の答えを待たずに、両手を胸の前で握りこぶししてガッツポーズを見せながらそう言ってきたのは静川美奈――水竜・静川聖輝の妹だった。

「敵陣に乗り込んで、先手打って勾玉で封じるんでしょ?」

 目を輝かせて美奈が言うのを、杳は内心慌てながらも、眉間に人差し指を当てて返す。

「いくらオレでも、そこまで無謀じゃないよ」
「ええーっ?」

 思いっきり意外そうに驚いて見せる美奈。

 相手が女の子であろうと容赦しない杳が、顔をピクリと引きつらせるのを、横で素早く読み取った浅葱がその間に割って入る。

「それで杳さん、僕考えたんですけど、力はまず形からってことで、昔のように神殿を作ってみたらどうでしょうか。それこそ、この前みたいに呪文一つで力を発揮できる人もいることだし、潜在能力を高める訓練をしようと思うんです」
「くんれんーっ?」

 嫌そうな声を上げる碧海を無視して、浅葱は続ける。

「いざと言う時に自分の身も守れないようじゃ、ダメでしょ?」
「賛成。美奈ちゃんもいいわよね」

 百合子が声をかけると、美奈も渋い顔だった。彼女は呪文を覚えるのが嫌いだった。

「勿論、杳さんも協力してくれますよね?」

 当然のように笑顔を向けて言う浅葱に杳は、同じく当然のように返す。

「オレ、パス。そんな面倒なこと、やだ」
「じゃあオレも、にぃ抜けっと」

 碧海が杳に便乗しようとする。浅葱はその碧海の襟首を掴む。

「碧海は、するんだよっ」
「なんでーっ?」

 贔屓だと言って抗議するが、浅葱は聞いてくれなかった。そんな碧海に、杳が偉そうに言う。

「せめて結界くらい張れるようになれよ。土壇場じゃ、誰も助けてやらないからな」
「ひっどー」
「じゃ、そういうことで、オレは夕飯まで一眠りしてようっかなぁ…」

 視線をそれとなく外そうとする杳は、しかし逃げられなかった。


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