第3章
償い
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翔達の作戦会議から外されて、杳は部屋の外へ放り出された。
毒づくが、到底聞いてもらえる相手ではなく、仕方なく彼は結界内の探索に出掛けることにした。
両親が不在の、実質二人暮らしをしている寛也達兄弟の家を借りてここは成り立っている。
そう広いものではないアパートであるが、そこは単なる入り口に過ぎず、結界の中に入ればどこに通じているのかと思うくらいの広さがあった。
かつての『竜の宮』がモデルだとは潤也の言葉であるが、平安調のこの造りは、現代人の感覚が入り込んでいる部分が伺えた。きっと潤也の頭の中で、教科書の古文のイメージが無意識に重なってしまっているに違いないと、杳は考えていた。
部屋数も多く、杳に気前よく個室を進呈してくれたはいいのだが、奥の方だったのでたどり着くまでに迷いそうだった。
「杳さんっ」
ふらふらと、奇麗に手入れされた庭――誰が手入れしているものか――に目を向けながら歩いていると、聞き覚えのある声が聞こえた。
振り返ると見覚えのある4人組がいた。
「全員…そろってるのか」
それは、竜の宮の巫女の転生者達だった。
かつての竜の宮には勾玉の力を操ることのできる者として5人の巫女もしくは神官を置いていた。
竜達が全て倒れた後、巫女達は宮を閉じた。その時代の者が全員転生してしまったのだ。勾玉を手に。
父竜の手の者に狙われつつも、ある経緯をたどって勾玉は竜達に保護されることになったのだった。
「本当なの? 竜王が父竜の側についたって…あの地竜王が…」
そう最初に聞いて来たのは砂田百合子。長い黒髪と色の白いの美人だった。
「本当だよ。信じらけないけど」
杳の言葉に全員で互いに顔を見合わせる。
「こっちの動揺も狙ってるんだろうなぁ。そんなこと気づかない紗和じゃないと思うけど」
かつての地竜王はともかく、現世の親堂紗和なる人物に面識のない4人は、杳の言葉に動揺を隠せない。
「せめて僕達に昔くらいの力があれば…」
そう呟いたのは杉浦浅葱。大きな瞳に色白な幼い外面に比べて4人の中では一番物の道理をわきまえていると杳は思っていた。
「一緒だよ。父竜を封じる力なんて」
「でも、負けないよね。竜王って強いんだろ?」
とは清水碧海。
「さぁ。本人に聞いてみれば?」
「ちぇっ、相変わらずだななぁ」
碧海は杳のそっけない物言いに不満そうに口をとがらせる。