第3章
償い
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「で、追い返されてきたわけ?」

 結界を施されたここは、一種の異次元空間のようなものだった。

 入り口は普通に玄関のドアから入るのだが、入った先にはもう一つの入り口がある。入れる者と入れない者とを選別するそこが結界の唯一の入り口だった。

 几帳面な弟の潤也の作ったものらしく、入るのには結構苦労する。

 そう感じているのはどうやら寛也だけらしく、杳に言わせると寛也はとんでもない不器用物らしかった。

 その杳が手ぶらで帰ってきた寛也に、一番に文句をつける。相変わらず遠慮がなかった。

 寛也が出掛ける前までは具合が悪いと言っていたのに、もうすっかり元気を取り戻したようだった。

「ばっかじゃないのー?」
「うるさいっ」
「その間に敵に先を越されても知らないからな」
「杳兄さん」

 止めに入ったのは翔。杳はプイッとそっぽを向く。

 言いたいことを言う従兄の杳と違ってこの竜王を名乗る翔は、大して顔色を変えることもなく寛也の話を聞いていた。

 二年前の冷めた態度とは違ってどこかふっ切れたような、そんな印象を与えると、潤也が言っていたのを思い出す。

 内面だけではなく、当時は寛也と並ぶと頭ひとつ分も低かった彼は、成長期もあってかひょいひょい身長が伸びて、今では寛也の目線を越えている。

 このままでは負けてしまうかもと、敵対心を燃やす項目が増えて面白くない寛也だった。

「仕方ありません。明日の10時ですね。僕も一緒に行きましょう」

 翔が申し出る。

「いらねぇよ、付き添いなんて」
「念のためです」

 苦笑気味に言う翔の後を取って、潤也が続ける。

「新堂くんが…地竜王が敵に回ったと知れば同行しないまでも、こちらにつくことを躊躇する者もいるわけだ。心理作戦だよ」
「僕が地竜王程の信頼があるとは思えませんけど」

 天竜王はやはり実力では群を抜く。が、先般のこともある、昔のこともある、敵として戦ってきた相手である彼の存在が他の連中にどれ程の影響力があるのか、ないのか、計れなかった。

「そーいうことなら、仕方ねぇか」

 やっぱり自分は甘いと、寛也は思う。

「頼りにしてるぜ、大将」

 寛也はそう言って翔の背をポンと叩いた。

 まだ高校生の、幼さが残る顔に少しだけ笑みが浮かんだ。


   * * *



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