第3章
償い
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「私、今更興味ないんだけど?」
滝沢雪乃はそう言って、結崎寛也に背を向けた。
戦力アップを考えた翔の言葉に従って寛也が雪乃の住む川崎を訪ねた時は、もう夕方近かった。
二年前、竜達の目覚めを促して回った彼女なら他の仲間の居場所も知っている筈だと言うのだった。
何も彼女にわざわざ聞かなくても時間さえかければ自分で捜そうと思えば出来るものを、それ程に翔は急いでいるのだろう。
「そんなこと言わずに協力しろよ。お前だってやられてしまうんだぞ」
寛也は背を向ける雪乃の前に回り込む。
「いいわよ、別に」
雪乃はそっけなく返す。
「竜王の一人が敵に回って、これで完璧に勝利は無くなったってことでしょ? どうせ死ぬのなら潔くってね」
「『どうせ死ぬなら戦って死ぬ』だろ。何言ってんだ」
「それはこっちのセリフ。全く、野蛮なんだから」
二年前の雪乃に聞かせてやりたいと、寛也は心の中で大きく叫ぶ。が、顔を引きつらせるだけでそれをぐっと我慢する。
「私、急いでいるんだけど」
雪乃は寛也を押しのけて行こうとする。
「俺も急いでるんだ。早いところ他の奴らに連絡を取りてぇんだ」
「だったらさっさと行きなさいよ」
「だから、どこの誰かも分からねぇんだってば」
それを教えてもらうためにここまで来たとは、最初に言った筈だが。
「…鈍感炎竜とはよく言ったものね」
「なにぃ?」
「私、本当にこれから用事があるのよ。明日で良かったら案内してあげるわ」
「明日?」
「何か文句あるの?」
雪乃を怒らせるなとは翔が言った言葉。それを思い出し、寛也はまた我慢する。
「いや…」
「だったら明日朝10時に迎えに来なさい」
命令口調でそう言うと、雪乃はもう他人顔をする。
別にこれからデートでもあるまいしと、寛也の呟くのが雪乃に聞こえたかどうかは定かではない。
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