第3章
償い
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「今の、寛也さん?」
憎々しげに寛也を睨んでいると、後ろから声をかけられた。振り返るとそこに浅葱が立っていた。学校から帰ってきたばかりらしく、制服のネクタイを締めたままだった。
「お帰り」
そんなに急ぐこともないと、部活動をしている浅葱には連絡を入れていなかった。浅葱は帰宅してから、居間に結界の入り口を見つけたのだろう。元々人間には通り抜けられるものにしておいたので、浅葱はそこから入ってきたらしい。
「何かあったんですか? 寛也さん、東京に行ってた筈でしょ?」
「うん。その東京でね、父竜に出くわしたらしいんだよ」
「え…?」
浅葱の顔色が一瞬変わった。が、すぐに平常心を取り戻したらしく、落ち着いた口調で返してきた。
「敵に出くわしたのに、ちゃんと戻ってきたんですね」
同居を始めて半年程だが、浅葱も寛也の性格を良く分かっているのだろう。
きっと寛也は一人でいたならば後先考えずに突っ込んでいったことだろうが、杳が側にいた為に引いて戻ってきたのだろう。杳を危険な目に会わせたくない思いに、逸る気持ちを押さえた点だけは感心しているのだが。
「うん。その代わりに新堂くん…地竜王が敵に回ったよ」
「え…」
さすがに浅葱も今度はすぐに平静さを取り戻せないようだった。
潤也も、もっともだと思う。
誰よりも温厚で思慮深い彼が、何を思ってのことなのか。困惑するばかりだった。
「取り敢えず、仲間を全員集めるよ。君達も身の危険がない訳じゃないから、長期滞在になっても構わないって言うなら、集めてもらえるかな?」
「あ…はい…」
浅葱は動揺を隠せない表情を何とか落ち着かせようとしながら、潤也の言葉にうなずいた。
本当に、地竜王は何を考えているのかと思う。
父竜の封印がまだ完全には解かれていない今なら、全員で当たれば何とか退けることができるかも知れないと言うのに。
潤也は自然に漏れてくるため息を止めることができなかった。
* * *