第2章
再会と決別
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 これから帰ると、簡単に連絡を入れてから我が家に帰宅した。

 すると、いつの間にか居間に異次元結界の入り口が作られていた。

「お帰り。早かったね」

 潤也が涼しい顔で出迎えてくれ、案内されて入った入り口で寛也は危うく吐きそうになった。

 どうやら今回の結界の入り口は寛也と波長が合っていないらしかった。通過した瞬間、意識を失うかと思うくらい気持ちが悪かった。

 その一方で、杳が平気な顔で結界をくぐり抜ける。今回のものは通りやすくしていると言いながら。

 潤也を見やると、首を振っていたので、きっと強固になっているのだろう。それをものともしていない杳は、やはり巫女の転生者だと思い知る。

 結界の中は何故か平安調で、長い廊下が続く間に、純日本風の庭園が広がっていた。

 伸びやかに広がる枯れ山水に、どこからともなく聞こえてくるのは鴬の鳴き声か。

「…お前の趣味か、これ?」

 寛也は我が弟ながら、良く理解ができないと首を傾げる。

 今までの状況から考えて、多分ここが自分達の本拠地になると思われる。つまり、作戦本部なのに、どうしてこうものんびりした風景になってしまうのだろうか。

 寛也がイメージするところでは、要塞か砦のようなものを想像してしまうのだが。

「いいだろ。仲間が多いから、部屋をたくさん用意したんだ」

 中庭を囲むようにして伸びる廊下は、角を曲がった向こうにも伸びているようだった。どれだけ部屋を作ったと言うのだろうか。

「じゃあ、オレの部屋もある?」
「あるよ。杳には特別室」

 そんな潤也の言葉に、杳は嬉しそうに笑顔を向ける。

 自分と違って、潤也はいつも杳の喜びそうなことを考えているのに少しだけ嫉妬心が浮かぶ。

 遠路はるばる東京まで一緒に行って同居したというのに、一夜たりとも部屋に入れさせてもらえなかった。杳に拒否され続けているのだ。その上にここでしばらく共同生活をするとなると、杳と仲良くできる希望は無いも同然に思えた。

 いや、一人部屋なのだとしたらまだ夜這いのチャンスは無い事もないかも知れない。

 そう考えた瞬間、寛也の表情を読み取ったのかどうか、潤也はすかさず釘を刺してきた。

「言わなくても分かっていると思うけど、みんなが集まるんだから、軽はずみな行動を取って風紀を乱すことがないようにね、ヒロ」
「な…?」

 潤也の物言いに、杳が吹き出した。

「特に翔くんを刺激するようなことだけは控えてよ。不安定な精神は戦力を乱すからね。無事に切り抜けられたら、あとは二人の好きにしていいけど、ここにいる間は我慢して」

 しかし、目立つようなことをしなければ大丈夫だろうと寛也が返す前に、杳が元気良く答えてくれた。

「いいよ、オレ。ヒロとは普通の友達ってことで。今までと余り変わらないし」

 そんな軽く返す杳の言葉が一番こたえた。

 やはり、恋人だなんて思っていたのは自分だけだったのだろうか。杳も寛也のことを好きだと言ってくれているのに。

「ヒロは? 約束できる?」

 潤也に聞かれて、寛也はチラリと杳を見る。

 杳は、本当に何でもないような顔をしていて、そのことに腹が立つ。

「できる訳ねぇだろ。むしろ俺は杳と同室になりてぇんだ。夜だって、ひとつの布団で寝てぇし、やりてぇし」

 ピクリと、顔が僅かに引きつった潤也に気づいて、まずいと思った時、背後から声がした。


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