第2章
再会と決別
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 揚は小さくため息をついて、あっさりと紗和の要求をのむと返してきた。

 そして紗和は今度は杳に向かう。

「杳、君達は翔くんの元へ戻った方がいい」
「そんなことできない。紗和、馬鹿なこと言ってないで帰ろうよ」
「ごめん、杳」

 言って、紗和は口の中で短い呪文を唱えた。と、杳はそのままその場に崩れ落ちた。それを寸でのところで抱きとめる紗和。

「一番安全なのは、僕の手元だと思うが?」

 背後から紗和に声をかける揚。が、紗和はそれに振り向きもせずに答える。

「どこかに閉じ込めておくんですか? 翔くんならそんなことをしなくても守れるから」
「翔? さっきから誰のことだ?」

 紗和は返事をしない。が、それは揚にはすぐに知れる。

「天人か。と言うことはこの子はいい人質になるわけだ」

 揚の言葉に、紗和はギョッとして振り向く。

「何もそう怖い顔をしなくてもいいだろう。引き換えにするだけだ。勾玉とのね。取引が済めば勾玉は僕の手元に、杳くんは天人の元に返るわけだ」
「何言ってるんですかっ。杳は…」
「所詮は人一人。君もこだわることはない筈だろう。生きて高々百年。ましてやこの奇麗な外見が保たれるのもあと数年のものだろう。人は短い生だからこそ、平気で人を裏切る」

 揚の目に浮かぶのは、憎しみの色だった。深い、深い、哀しみにも似た、憎しみの色だった。

「君が守りたいと言うこの子も結局は同じだ。虫けら同然の人間が…!」

 言葉とともに募る憎しみが、揚の手の平で膨らむ。

「止めて下さい」

 紗和の声に、揚はふっと怒りを鎮める。

「…そうだったな。僕は約束は守るよ。だから君も裏切りは許さない」
「分かっています」

 紗和は揚から目を逸らして、手の中の人物を見やった。


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