第2章
再会と決別
-4-

5/7


 部室は散々な有り様だった。

 ドアを開けて、一番に飛び込んできたのは、床にひざまずく紗和の姿。

「紗和っ!」

 振り向いた紗和が驚きの色を見せる。

「どうやって…」

 紗和の施した結界は、人が誤って近づかないようにするためのものだったのに、どうやってくぐり抜けてきたものか。

 そう言えば、2年前にも潤也の作った強固な結界を抜けて来たことを思い出し、紗和は自分の失態に気づく。

 ――杳は巫女だ。間違いなく、竜王の宮の。

「何やってんだよ、こんな所に一人で来て。こいつはオレに言い寄って来るようなヘンタイなんだぞ」

 力を使い果たしてへたりこんでいる紗和に、杳はそう怒鳴る。この場でどういう認識かと、突っ込んでみたくなった。

「やれやれ、みんな僕を誤解しているようだね」

 揚が困った様にそう呟く。

「さ、帰ろう」

 杳は紗和の腕を取り、立ち上がらせようとする。が、紗和はその手を振り払う。

「紗和?」
「自覚が足りないのは僕の方だったみたいだ」

 粗い息をつきながらそう言う紗和に、再び揚は誘いをかける。

「今からでも遅くはない。僕の側につかないか?」
「あんた、もしかして…!」

 驚きの表情を向ける杳を、揚は鼻で笑ってみせた。その揚を見て、みるみる顔色が変わっていく杳。

「杳、翔くんに伝えて欲しいんだけど…僕は父竜につくよ」
「紗和…?」
「勝てっこないよ。だから、僕は彼の元へ行く。そう伝えて」

 ゆっくりと自力で立ち上がる紗和。

「代わりに一つだけ条件があります」

 真っすぐに揚を見据えて紗和は言う。

「杳には手を出さないでください」

 杳が抗議の声を上げるが、紗和は無視した。

「簡単なことですよね。あなたにとって、人一人見逃すくらい」
「僕の傀儡(かいらい)にしてもいいと言うなら、生かしておいてあげてもいいが」
「手を出さないでって言ってるでしょう!」

 もう抵抗する力もない筈なのに、紗和は攻撃敵な目を向ける。


<< 目次 >>