第2章
再会と決別
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「天人は多分、僕を疑うことはない。勾玉を渡せと言えば何の疑いも持たず渡してくれるでしょう」
「だろうね」
「勾玉が欲しいと言うのなら何とかしましょう。でも、渡すには条件があります」
「条件?」
「人類の滅亡などという考えを捨てて下さい」

 やれやれと、揚は肩を落とす。

「貴方が神としてこの地へ降りたのは知っています。でも人類はもう独り立ちを始めています。神と交わらなくとも、竜神達の力を得ずとも、独自の文化を築き上げています。その彼らを死に至らしめる権利は、貴方にはもうありませんよ」
「権利ときたか」
「ええ、何人(なんぴと)も人の生を奪うことはできない」
「君が仲間に加わらなくて、残念だよ」

 揚が冷たく笑みを浮かべた。


   * * *


 ドカンと言う音が聞こえた気がした。大地が大きく揺れたかのような感覚に、杳は顔を上げた。

「何?」

 しかし、周囲の者は何事もなかったように前を向いている。それなのに感じる違和感があった。背筋がゾクリとするような。

 講義の見学中だったので、なるべく周囲に気づかれぬように教室を出た。

 教室から出て、廊下の窓から見えた景色に息をのむ。黄金色の竜がそこに舞っていたのだった。

 そして、その気が次第に薄れていくのがはっきりと感じられた。

「紗和…」

 駆け出す杳。嫌な予感がした。

 ようやく近くまで駆けてきて、杳は立ち止まった。そこに目に見えない結界が張られているのが分かった。

「無駄よ。そこから先へは行かれないわ。新堂くんの、地竜王の結界よ」

 美都だった。

「馬鹿な子だわ。本当に」

 何故その名を知っているのか、明かに何か事情を知っているらしい美都に不信感を抱くが、彼女を問い詰める暇などなかった。

 杳は大きく深呼吸をして、それからゆっくりと足を踏み出した。結界の壁が、やんわりと杳の身体を吸い込む。殆ど抵抗はないように思えた。

 壁を抜けると、杳はそのまま目的の方向へ向かって駆け出して行った。

「あの子、一体…」

 後には呆然とする美都が残った。


   * * *



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