第2章
再会と決別
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「やれやれ、その要らない情報も篠原かい?」
「さて、どうですか」
紗和の表情を読み取ったのか、揚は少々意地の悪い笑みを浮かべる。
「でも、君がその気で来たと言うのなら」
「遠慮しますっ!」
即、帰ろうとする。それを慌てて引き留める揚。
「冗談だ。本気にするな」
冗談なのか本気なのか判別に苦しむ人だと、紗和は思った。
ここに長くいると、別の意味で身に危険があると感じる紗和だった。
ふと、横合いから声がかけられた。
「先輩の妙な気配で迫られると、普通、本気にしないまでも怖がりますよ」
笑いながら言う声に振り向くと、いつからいたものか、男子学生がロッカーの陰に転がっていた。
彼からは父竜と同種の気配がまるでなかったことに、紗和は驚く。普通の人間なのだ。
「いつからそこにいたんだ? 盗み聞きか?」
「ちょっと講義をサボって昼寝をしていたんですよ。人が寝ている所へ後から入ってきてゴチャゴチャやってたのはそっちじゃないですか」
朝っぱらから昼寝をしていた彼はそう言って、大欠伸をした。
「もういい。外へ行ってろ」
「ふん、信用ありませんね。これでも俺はあんたの仲間なんですよ」
彼はそう言いながら外へ向かった。出掛けにちらりと紗和を振り向く。
「地竜王か。天竜王でなくて残念だよ」
紗和は笑いながら出て行く彼を、不審そうな目で見送った。
「害は大してない奴だ。天竜王の天人に恨みを持つだけの男だ」
含み笑いをして、揚は続ける。
「ま、仲間になるのならいずれ知ることになる。あいつは君と同じ史学部の二年で、現世名は名代開(みょうだいかい)。過去名は『ゆの』」
昨日聞いたばかりの名に、紗和は驚く。
「そういう訳だ。僕にはどうでもいいことだが、少なくとも綺羅の姫巫女が現存しないことは幸運なのかもね」
「ご謙遜を。巫女なんて鼻にもかけてないでしょ?」
「まいったなぁ」
揚はポリポリと頭を掻く。その仕草は、人類を滅亡させようとする殺戮の神としては余りにも不似合いに思えた。
「きっと完全に復活を果たした時には、貴方には恐れる者などこの世にはいなくなる筈。思い通りに人類を死滅させ、天上へ戻るのでしょう」
それにはまず封印を解かなければならない。天竜王の保護する元にある4つの勾玉の封印である。
「それで、僕を仲間に引き入れようとする訳ですね」
「…そう取ってもらってかまわないが」