第2章
再会と決別
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「君の決心が変わってくれてよかったよ」

 部室に紗和を招き入れて、揚は言った。

 見回したところ、隣の映画研究部の部室と同じ作りの、普通の部屋にしか見えなかった。

 紗和は勧められて、室内の中央に置かれている椅子に座った。

 見渡した部室の中には、結界の入り口も、感じることはなかった。しかし、彼がここにいる以上、ここが学内での拠点には違いないだろう。

「先輩は篠原部長と何か確執でもあるんですか?」
「さあ、彼女に嫌われるようなことをした覚えはないんだけどね。出会ったのもここへ来て初めてだし」

 それにしては酷く嫌われているように紗和の目に映った。

「どちらにしても今は女に興味がないんでね」

 一歩引く紗和。それを見て揚は笑う。

「ああ、そう言う意味じゃないよ、まったく…」

 昨日の美都の言葉がふと紗和の頭をよぎっただけだった。

「それにしても、いやにあっさり気が変わったものだね」
「僕のことですか?」
「昨夜はあんなに拒んでいたのに」

 冗談めかして言う揚に、紗和は真剣な表情を向ける。

「貴方を説得に来たと言ったら?」
「説得?」
「あなたのその『使命』です」
「ああ、あれは口実だよ」

 鼻で笑って、揚は続ける。

「僕の望みは地上の醜い生物の浄化さ」

 人間のことだと付け加える。

「憎しみ、嘘をつき、裏切り、そして殺し合う。神の作ったものとしては不完全すぎると思わないかい? 僕はそんなものの存在を許さない」
「でも、貴方も今は人間でしょう?」
「これは仮の宿りだ。勾玉の封印さえ解ければ、もとの姿に戻れるよ」
「そうですか…」

「僕を説得なんてできないんだよ。誰にもね」

 頑なな揚の心は簡単には開かれないのかも知れない。紗和は自分の考えの甘さに失望する。

「さて、じゃあ君はどうする?」
「先輩のてごめにされて、囲い者にでもなりますか」
「面白いことを言う。だけど、地人相手にそれはないだろう」

 現世はともかく、竜身では父子の間柄であった。揚の言葉に紗和はほんの僅かだけ安心する。


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