第2章
再会と決別
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「人間? どこが? 君の発している気は竜族そのものじゃないか。血は僕から受け継いだものの方がずっと濃い筈だ」
「あなたも…あなたも人間でしょ? 人として生まれ、その年まで成長してきた。親がいて、兄弟がいて、親しい友人がいて。紛れも無い人間ですよ」
「そうかい、残念だよ」
揚はそう呟くように言って、立ち上がった。
「今のうちに陣を固めておくといい。何匹復活しているか知らないが、君達だけの力では僕を倒すことはできない。せいぜいの悪あがきになるだけだろうがね」
そう言って背を向け、そのまま部屋を出て行こうとする。
「それでもかつて僕達は貴方を封じた」
紗和の言葉に足を止める揚。
「綺羅がな。あの女の産んだ忌まわしき子。だが、人の子の生は短い。もう君達に僕を封じる力はないよ。あの勾玉を除いてはね」
「待って下さい」
紗和は立ち上がり、揚に駆け寄る。
「どうしても貴方はその『使命』を果たさなければならないんですか? もう、幾千年も前のことなのに」
「僕にとっては長き屈辱の日々だったよ。もう、終わりにしたい」
「僕にとっては掛け替えの無い日々だったんです。貴方が僕を…僕達に生を与えてくれて幸運だったと思っています。この大地に生を受けて」
黙って、揚は紗和を振り返る。
「できたら戦いたくありません。きっと他のみんなも同じ意見だと思います」
「そうかい…」
感情のこもらない声でそう答える。
「貴方には、この世に大切だと思える人はいないんですか?」
ギラリと、揚の目が光ったように見えた。
「いる筈なかろう。人は必ず裏切る。永遠なんてことは、連中には有り得ないからね」
「貴方は愛されなければ、人を愛することができないんですね。可哀想な人です」
紗和のその言葉に、揚は無言で、右の手の平を向けた。
途端に光の球がその手に生じ、次の瞬間には、紗和の腹に直撃していた。
光球の勢いに、紗和は後方の壁に吹き飛ばされる。
「なに…を…」
「封じられていても、このくらいの力はある。今度生意気な口をきいたらその身体に穴があくことになるよ」
そう言って、揚は部屋から出て行った。
「くっそ…」
力に差があることは、今のたった一撃でも分かった。とっさのこととは言え、何とか受け止めようとしたつもりなのに。
勝てないと思った。
全員の力を集結したとしても、勝機は一分もないだろう。
紗和は腹を押さえてうずくまったまま、身体の震えを押さえるので精一杯だった。