第2章
再会と決別
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 紗和が下宿に戻った時、時計の針は既に夜中の11時を回っていた。

 来て一週間にもならないのに、もうここを出ることになるのかと、少しだけしんみりする。

 が、よくよく考えると六畳一間の共同炊事場の下宿である。住んで快適なのはやっぱりマンションだろうと思った。家賃が浮いた分、別に何かに使えるだろうし。本当に何に要るのか分からないだろうから。

「遅かったではないか」

 階段を昇ろうとして、背後から声を掛けられた。昼間聞いたばかりのその声にギョッとしながら紗和は恐る恐る振り向いた。

 そこに、明日香揚がいたのだった。

「どうして…」
「友人がここの住人なんだ。気づかなかったかい? 地人(ちのと)」

 かつての名で呼ばれて、紗和はピンと身が締まる思いがした。この名を知る者は限られているのだ。

 用心深く、紗和は名を名乗った。

「そう言えば自己紹介がまだでしたね。僕は新堂紗和と言います」

 紗和の疑うような視線を、揚は気にした様子もなく答える。

「新堂くんだね。覚えておこう」
「じゃあ僕は用がありますので」

 くるりと背を向ける紗和を、逃がさぬように揚は前方へ回り込む。

「少し、話がしたいんだが」
「今ですか?」
「ああ、時間は取らせない」

 相変わらず口調は気障ったらしいが、人当たりの良さそうな笑みを浮かべていた。

 が、その身よりわき出る気に、紗和は圧倒されていた。

「…はい」

 話だけならと言う安心感も手伝っていたのかも知れなかった。


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