第2章
再会と決別
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 杳を見やって、紗和は首を傾げる。そんな話は聞いたことがなかったし、杳の身からそんな気は感じられないのだ。

 どこに勾玉かあると言うのだろうか。

「ああ。翔のヤロウに言わせると、勾玉は杳を守っているらしいんだが、そのお陰で杳に術が効かねぇし、一度消した記憶まで勝手に思い出しやがって、手に負えねぇんだ」
「どーいう意味だよ?」

 言葉尻を取って口を挟む杳に、紗和はひとつの答えを導き出す。

 杳は、残る巫女の一人――あみや、かと。

 もしそうだとしたら、杳はとんでもない所へ来てしまったことになる。いや、もしかしてもしかすると杳はこのことを知っていて、自ら進んでここへ来たのではないだろうか。

 自分をじっと見ている紗和に気づいて、杳は僅かに口元を綻ばせる。

「葵家は神官の末裔なんだよ。だから、血の所為じゃないかな」

 その杳の言葉に驚きの声を上げたのは、紗和よりもむしろ寛也の方だった。

「おま、お前、そんなこと…!」
「潤也は知ってるけどね」
「聞いてないぞっ!」

「まあまあ」

 紗和はまた寛也をなだめる。こう掻き回そうとされては話が前へ進まない。

「黄玉は翔くんの実家にあったし、古文書も多かったから」
「じゃあ、あみやの子孫?」
「そんなわけないよ。あみやは…」

 まだ少女の頃に亡くなっているのだ。

「あみやの兄貴、知ってる?」

 寛也が首を傾げる。

「兄貴なんていたっけ?」
「『ゆの』…」

 答えたのは紗和。

 あみやの父が神官の座を譲る際、例にない強い力を持つあみやをその世継ぎと決めた時、何も言わずに宮を出て行ったと紗和は説明する。

 実際、炎竜は南の宮を守っていたのだから、中央のことはさして詳しくないのだろうと付け加えることを忘れない。

「多分ね。ま、家系図なんてないから半分、嘘っぽいけど、翔くんが葵家に生まれたのはそこら辺が関係しているのかもね。あみやと同じ血の流れる…いや、綺羅の血って言った方がいいのかな」

 紗和には興味深い話だった。

「…でもきっと、父竜を封じられる力はないと思うよ。術を使うには血が薄くなり過ぎているし」

 握りこぶしした自分の両手を見つめる杳。それを紗和は黙って見つめていた。

「俺だけまた何も知らなかったてのか?」

 舌打ちする寛也に、それは少し違うのではないかと言いかけて、紗和はそっとしておくことにした。

「それにしてもあの翔くんが、君が東京へ出ることをよく承知したものだね」
「知らないよ。翔くんはオレの人生には関係ないよ」
「そう…なの?」
「何だよ」
「別に」

 わざとなのか、それとも本当に気づいてないのか、紗和に杳の真意は読みかねた。

「さてと、遅くなるから早く食べて帰ろうかな」

 その場は深く追求する必要もないだろうと、紗和は箸を取った。

 泊まっていかないのかとの誘いを丁重に断った。帰りがけに翌朝の味噌汁まで作らされて、紗和はその日は退散した。


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