第2章
再会と決別
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何を思うのか、寛也は杳を盗み見てから続ける。
「その、つまり、お前は杳なんかよりもずっと役者が下だってことだ」
そう言う寛也も基本的には杳に頭が上がらないのだろうなと思ったが、口に出すことはしなかった。
「部屋はそっちの和室になるんだ。6畳あるから好きに使って。各部屋に鍵はないけどいいよね? その他の場所はすべて共同。それからこれは守って欲しいことなんだけど、女の子も男の子も連れ込みは絶対禁止だから。夜ばいも禁止。分かった?」
杳の言葉に紗和はぽかんと口を開けて、寛也は椅子から転げ落ちていた。見やると、泣きそうな顔になっていた。何か、心に突き刺さったらしい。
その寛也に気づかぬフリで杳は続ける。
「じゃあ、次の日曜日に引っ越しだね。どこの業者に頼もうか?」
「えーっと…」
紗和が答えない間にどんどん話が進んで行った。強引な杳だった。
* * *
「それはさておき、これからどうするかだけど」
言うと即行動なのだろうか、早速紗和は夕食を作らされる羽目になった。
その脇のリビングでごろごろしながら寛也が答える。
「俺は学生証の偽造でもするか。パウチ式だろ?」
「バカじゃん。今時、そんな安価な身分証なんてあると思う? それに、学生証なんてなくても、図書館以外は自由に出入りできるじゃない」
いかにも小馬鹿にしたような言い方に、寛也は言い返せない様子だった。
そこで、ころりと話題を変えた。
「でもよ、俺、よく分からねぇんだけど、父竜は復活するのか?」
寛也の問いに紗和は手を休めずに答える。
「さあ分からない。だけど、封印が弱まっていて、その気配も確かに感じるから」
言いながら紗和は、あの明日香揚のことを思い出す。
杳の言うとおり、気障な印象が鼻に付くくらい強いあの男に、紗和は事実、恐怖を感じたのだ。あの、一族特有の気とともに。
彼が父竜そのものか、それとも濃厚接触者が持つ残り香か区別はつかなかったが。
「父竜を封印している勾玉は、4つ集めてんだぜ」
「えっ?」
紗和は流しの水を止めて寛也を振り向く。そんな話は初耳だった。
「敵さんの手に渡りでもしたら一大事だろ? 竜の宮の巫女と一緒に俺んちで保護してるんだ」
実際、紗和は北海道に住んでいた。翔や寛也達が岡山に集まっていることに比べれば、地の果てとも言える程遠くにいたことになる。連絡も取りずらいのは仕方がないにしても、仲間外れはないのではないかと、少しだけさみしく思う。
「ああ、そうなんだ? 僕がのんびりしている間に君達はすごいな」
「違うって」
ちらりと杳に目を向けてから、寛也は続ける。