第2章
再会と決別
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「何か、大学生の物にしては豪華すぎるような気がするんだけど」
杳と寛也の住むマンションに連れて来られて、紗和は目を見張った。
地下鉄の出口からそれほど遠くもない所に立つ21階建てのマンションは賃貸とのことらしいが、月にどれくらい払っているのか聞くのが怖かった。
「こいつのうちって、父親は一介のサラリーマンなんだけど、実はすっげー金持ちなんだぜ」
寛也がそう説明するのを、彼の頭を軽く小突いて杳は答える。
「んなわけないだろ。一人っ子なんで贅沢してるだけだよ」
それにしても、である。
「何なら一部屋空いてるから、住む?」
「いや、僕は…」
いきなりの進言に遠慮を見せる紗和。こんな所になんて住んだら、罰でも当たりそうだと思った。
「ちょっと待て、杳」
口を挟もうとする寛也を横に押しやり、杳は続ける。
「いいじゃない? 紗和の下宿、ちょっと遠いし、それに相手が相手だから、下手に分裂してるよりもいいかも」
そう言った杳に、隣で聞いている寛也は言いたいことがあるのか口をぱくぱくさせているが、何も言えないでいる様子だった。
その寛也を無視して畳み掛ける杳。
「加えて、紗和って料理が得意そうだし」
「は?」
「下宿代はいいからさ、食費割り勘で食事係っての、どう?」
「ちょっと待って」
しかし、杳は既に紗和の言葉など聞いていなかった。
「ヒロもおいしいものが食べれて、嬉しいよね?」
有無を言わせぬ口調に、寛也は諦めたとばかりに肩を落とす。
「ああ、お前の闇鍋もどきよりか、ずーっと食えるだろうし。昨日なんてタワシを食わされそうになったからな」
「そのまま食べれば良かったのに」
「お前なぁ」
恨みがましい表情を向ける寛也。
このままでは話が成立してしまう。紗和は慌てて口を挟んだ。
「ちょっと待ってよ。僕はまだ何も…」
「ダメなわけ?」
杳がジロリと睨んできた。その目に、気がつけば承諾していた紗和だった。
「じゃあ決まりだね」
途端に上機嫌になる杳。
大きくため息をついて寛也が、紗和に耳打ちしてきた。
「ばかだな。自分の主張があるならとことん言わねぇと、あいつは折れないぜ。言い合いになっても押さえ込んだ方が勝ちだ。あいつはそう言うタイプだ」
「はあ…」