第2章
再会と決別
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「忍び込もうとして迷子になったぁ?」
30分後に約束した場所へ行ってみると、杳に耳を引っ張られた寛也が待っていた。
寛也はどうやら待っていてもつまらないからと、学内に忍び込んで中の様子を伺おうとしたらしかった。が、広い学内で歩き回った末に方向を見失ってしまったらしく、どうしたものかと途方に暮れていたところを杳に発見されたのだと言う。
どこかで聞いたような間抜けな事実に、紗和は怒るのも通り越して、ばかばかしくなった。
「だってよ、お前らだけ中に入れて、つまんねぇから。その間に何か情報収集でもしようと思ってな」
「…人騒がせな奴」
ボソリと杳が呟く。その杳に一言文句をつけてから、寛也は鼻の下を指の背でこすりながら、自慢げに言った。
「その代わりにちょっと面白いことを耳にしたぜ」
「面白いこと?」
「ああ、この大学の理事長の孫がここに通ってるんだけど、そいつ、どうやら人を食う化け物らしいぜ」
「はぁぁ?」
訳の分からない寛也の言葉に、杳でなくとも眉をしかめる。
「いや、食うって言うか、その…てごめにされるって言うか…」
紗和は美都の説明とシンクロするこの寛也の言葉にもう少しで吹き出すところだった。
「そいつ、考古研の部室で怪しい仲間と怪しい呪文を唱えてるって話だぜ」
「怪しい怪しいじゃ、何のことだか分からないじゃないか」
「だから怪しいんだってば」
紗和は寛也の話す内容に、それがあの男のことだと知る。
考え込んでいる様子を見せる紗和に、杳が声を掛けてくる。
「紗和? どうかした?」
「あ、何でもない。ちょっとだけ気になることがあって」
「何?」
いきなり顔を覗き込んでくる杳に、紗和は驚いて一歩引く。
「あ、あの部長なんだけど」
「部長って、篠原部長?」
「何か知ってるんじゃないのかな」
冗談でごまかしていたが、紗和にはそれが他の真実を隠している証拠のように思えてならなかった。
「とにかく、学内を少し調べてみる必要がありそうだね」
紗和の言葉に、寛也と杳は顔を見合わせる。
「考古研の部室か?」
寛也の問いに、紗和は小さくため息をつきながら答えた。
「多分、ね」