第2章
再会と決別
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紗和が怪しいと踏んだのは、あの考古学研究部だった。
そこで、自分はそちらの方向を捜すからと、杳には校舎内を頼んだ。杳は何の疑問も表さず、素直にうなずいてくれた。
そして、寛也が見つかっても見つからなくても、30分後に別れた同じ場所に戻ってくる事を確認して別れた。
杳が校舎内へ去って行くのを見送って、紗和はクラブハウスへ向かった。
映画研究部の隣の、考古学研究部――。
その部室の前へ立って、紗和は大きく深呼吸をしようとして、ふと、横から声を掛けられた。
「あら、何か忘れ物?」
聞き覚えのある声に振り返ると、先程の映画研究部長の美都だった。丁度部室から出て来たところのようだった。
「い、いえ…」
タイミングの良すぎる出現に、紗和は少々戸惑う。
「だったら早く帰りなさい。そこ、一般学生は立ち入り禁止なんだから」
冗談のような口調だったが、目は真剣に見えた。
「どういうことですか?」
「普通の人が何の装備もなく入ると、生皮を剥がされたりするの」
顔に似合わない、ぞっとすることを冗談のように言ってくれた。この場に杳でもいようものなら、絶対に乗り込むと言ってきかないことだったろう。
「人聞きが悪いではないか、篠原」
その時、どこから現れたのか、いきなり背後から声が聞こえた。
見ると、今朝の、杳と一緒にいた男が立っていた。あの、ぞっとするような気を持った彼が。
ギョッとする紗和。本当に、つい今し方まで気配のひとつも感じなかったと言うのに、その一瞬の出現で、紗和はひざが震えるのを感じた。
「妙な噂を流す奴がいるから、毎年、新入部員が集まらないんだ」
「あらぁ、違ったかしら。夜中、フィルムの編集をしていると、誰かのすすり泣く声が聞こえるって、うちの部員が言ってたわよ」
「それじゃあ怪談だよ」
彼は困った様に言ってから、紗和に目をやる。
「ところで、君、新入部員かい?」
「残念でした。この子はうちの部員よ。手を出さないでくれる?」
「はいはい」
彼はそう言って部室の鍵をポケットから取り出す。そして鍵を開けながら、紗和を振り向く。
「君、気が向いたらいつでも蔵代えしておいで。歓迎するから」
そう言ってウィンクしてきた。驚く紗和を見て、彼は笑いながら部室へ姿を消した。
「あら、そう言えば杳ちゃんは?」
「え…ああ、ちょっと校舎を見学するって。それよりさっきの話なんですけど、生皮を剥がされるっていうのは…」
これでは考古学研究部の部室を調べることは難しいと、紗和は別の方法を探すことにした。そこで、今の会話を問いただしてみる。
が、改めて聞かれると、美都は口が重くなった様子だった。
「さあ、はっきりしないことだから。興味あるの?」
「いえ…」
こちらもあからさまに嗅ぎ回りたくないと、紗和も言葉を濁す。
そんな紗和に、美都はぽつりと言った。
「やめておきなさい、関わるのは。あなた一人でどうなるものではないわ」
「え?」
見返した美都の表情は一瞬だけ強ばって、そのすぐ後には、人懐っこい笑みに戻っていた。そしてとんでもない事を口走る。
「なーんたって彼は周囲も認める美少年好き。押し倒されても責任取れないわよ」
「部長?」
紗和は信じられないものを見る目で、この年上の女性を見やった。
「さあさあ、暗くなる前に帰った帰った。杳ちゃんもしっかりガードしてあげなさいよね」
そう言うが早いか、紗和は美都に背中を押されて、クラブハウスから追い返されてしまう事になった。
言い返そうにも、もう聞いてはくれなかった。
* * *