第2章
再会と決別
-2-
7/10
クラブハウスは学舎から言うとグラウンドの反対側に位置している。二階建ての建物で、中はサークルの部室になっていた。
入学案内には色々と書かれていたが、まだ新学期が始まっていないからか、辺りは学生の姿も殆ど見当たらず、静かだった。恐らく新入生の勧誘のために校門前へ出払ってしまっているのだろうとは杳の意見だった。
紗和は杳の前に立って、慎重に各部屋を見て回った。そして、一つのドアの前で止まる。
「ここ、入らない?」
にっこりと杳に笑顔を向けてそう言った。その部室のドアには『映画研究部』と書かれてあった。
「君は見目もいいから使ってもらえるかも知れないよ。さあ、入ろう」
「ちょっと、こら、紗和ってばっ」
杳の返事も聞かず、紗和は部室のドアを開けた。杳の腕を取り、文字通り強引に引きずり込んだ。
この時、杳がもう少し注意深かったなら、隣が考古学研究部であったことに気づいていた筈ではあった。
「あら、新入生?」
中には上級生らしい女性が一人いただけだった。肩までのカーリーヘアーに、少し大きめの丸いメガネが印象的だった。
「入部希望なんですけど、いいですか?」
紗和が元気良くそう言った。それに釣られたのか、彼女もにっこりと笑みを浮かべる。
「じゃあ、取り敢えずここに学部と名前と連絡先を書いてね」
ノートを取り出し、紗和に手渡す。紗和はそれを受け取って、優等生の返事を返していた。
言われたことを書くと、そのまま杳にそれを差し出す。
「なっ…」
「バイトもいいけど、長い大学生活なんだから、楽しまなくっちゃ。無所属なんてつまんないよ。ほら書いて」
そして杳にノートと鉛筆を握らせる。
「強引な奴。やっぱ血だよな」
「いいから、いいから」
杳はそれでも仕方なく紗和に従った。ぶつぶつと、不平をこぼしながら。
書き終わったノートを受け取って、彼女は満足そうにうなずく。
「えーっと、新堂紗和くんに、葵杳ちゃんね。嬉しいわ、女の子、なかなか入ってくれないのよ」
その言葉に、杳がムッとした顔をする。
「…オレ、男だけど」
「は?」
「やめてやる、こんな部」
本気で出て行こうとする杳を、彼女は慌てて引き止めた。
「ごめん、ごめん、杳くんね」
横にいた紗和は冷や汗ものであった。かく言う自分も、最初はしっかりと間違えたものだった。
話を聞くと彼女はこの部の部長で、三年の篠原美都(しのはらみと)と名乗った。
最近、女子部員が少なくなったので女の子を待っていたのだと、杳には聞こえないよう、紗和に耳打ちしてきた。
余程女子部員が欲しかったのか、しきりにため息をついていた。
「じゃあ、今日はこれで」
杳の機嫌が悪くならないうちに、紗和は早々に切り上げることにした。
寛也との約束もあることだから。
* * *