第2章
再会と決別
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どこにいても目立つ人はいるものだと、紗和は思った。竜達のように気を発しているわけではないにも関わらず、目に入るのだ、杳は。
懐かしい姿に紗和は近づこうとして、その次の瞬間、足が竦んだ。
杳に声をかけている人物に、ギョッとした。それは背筋を凍らせる程の気を発して、そこにあった。
何だろう、この感じは。ぞっとする程に恐怖する。
やがてその人物は杳に何やら耳打ちして、そのまま去って行った。
一人になった杳に、紗和は用心深く声をかけた。
「杳」
振り返る瞳は、あの時のまま。紗和は一瞬取り込まれそうになる。
「紗和? 何で?」
「久しぶりだね。こんな所でまた会えるなんて思わなかったよ」
紗和は随分喜んでいる自分に気づく。それでも何げない振りをして見せれるのは、我ながら感心した。
「学友だね。これからよろしく」
そう言ってほほ笑んで見せた。その紗和に杳はしばらく考える様子を見せてから、尋ねてきた。
「一人?」
「は?」
「里紗(りさ)はいないよ…な?」
キョロキョロと辺りを見回す仕草に、紗和はその真意をようやく気づく。杳は紗和の姉である里紗を警戒しているのだった。
「大丈夫だよ。姉は地元の短大に行ったから」
人を引っ掻き回すだけ引っ掻き回しておいて、悪びれた様子も見せない里紗の強引さは、紗和も重々承知していた。
かくいう自分が一番の被害者なのであろうが、それは姉弟であるから仕方ないにしても、他人はたまったものではないと思う。
二年前、この東京で出会った時に、自分がいなくなった後、残った杳に姉がどれだけ迷惑をかけたのかは想像に容易かった。
「その節はお世話になりました」
紗和は深々と頭を下げる。
「ほーんと、紗和の姉さん、性格がパワフルだから」
そう言って杳は奇麗な笑みを浮かべた。紗和が心配した程も気にはしていない様子にホッとした。
「ところで、さっきの人だけど」
二人は手続きを済ませると、入学式会場になっている講堂へ向かって肩を並べて歩いた。
「さっきの人?」
「ほら、さっき話をしていた背の高い男の人」
「背が高い…? ああ、あのキザ男?」
一瞬、その表情が固くなったが、すぐにそれを和らげて返してきた言葉に、紗和は返答に困る。
「ここの院生って言ってた。名前、ナントカって言ってたけど、忘れた」
あっけらかんとして言う。それがさも、本当のように。
「何の用だったの?」
「何って…学内を案内してくれるって言うんだけど、断った」
あっさりとそう言って笑う杳に、紗和は内心ホッとしていた。
先程感じた気が彼のものだとすれば、できたら杳には懇意になって欲しくなかった。自分の恐れる者とは。