第2章
再会と決別
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「何でだ? 杳の行くような学校だぞ。お前、賢いって聞いたけど、何でこんなとこなんだよ?」
「買いかぶり過ぎないでよね」
さらりと言い交わす紗和に、寛也は不審を拭えない様子だった。
「ところで、君も今日からここの学生かい?」
「まっさか。俺の目指すは国公立だ。それに向けて日夜勉学に勤しむ。それが今の俺の姿だ」
「ああ、今年も受験生をするわけか」
「言うか?」
「ごめん、ごめん」
悪びれた様子もなくそんな言葉を口にするその笑顔に、寛也はどこか自分の弟に似た所を見つける。
「で、その君がこの学校に何の用事?」
「ちょっとな」
寛也は問われて、ちらりと校門の中を見やる。もうそこに杳の姿は見えなかったが。
その寛也に意外な問い返し。
「女の子?」
「ち、違うってっ」
「ふーん。末子の戦もついに色気づいたか」
「お前、いい性格してるじゃねぇか」
思わず握りこぶしを握ってしまう。が、紗和はそれに動じた様子も見せず笑い返す。
「ま、冗談はさて置き、ちょっと急いでるんだ。入学の手続きがまだなんでね」
紗和は手に持った茶封筒を見せた。この大学の名が書いてあるそれは、杳も持っていた入学案内だった。
「後で落ち合おうよ。ちょっと話したいこともあるから」
そう言いながら紗和は、手帳にサラサラと自分の携帯の番号を書き込んで寛也に手渡した。それを見ながら寛也は呟くように言う。
「ここに何か…あるんじゃないだろうな…?」
「え?」
聞くと紗和はびっくりしたような顔を向けて来た。いくら寛也が鈍くても、これくらいは分かった。
まさかと思う気持ちが浮かぶ。
杳はこの大学に来たかったと言わなかっただろうか。
「杳のヤツ…」
もしそうだとしたら、どこまでも内緒にして寛也に話してくれない態度が腹立たしかった。
「杳って…あの…?」
寛也の口をついて出た名に、紗和の目がわずかに厳しい色を浮かべる。
「…多分2−3時間くらいで終わると思うから、それまで待っててくれる? そうだな。あそこの喫茶店ででもお茶しててよ。後で行くから」
紗和の指さす店に目を向けることもない寛也に、紗和はギョッとするようなことを告げた。
「詳しいことはその時に話すけど…この大学には、父竜の異次元結界へ通じる扉があるみたいなんだ」
紗和の言葉に寛也は驚く。そんな寛也の表情を素早く読み取って、紗和は付け加えることも忘れない。
「まだ未確認なんだけどね」
しかし、寛也は確信した。杳は本気で――。
「じゃあ、行ってくるよ」
そう言って紗和は駆けて行った。
* * *
思いっきり走って、杳は倒れる前に足を止めた。
まったくもって寛也ときたら、人込みの中で何をやらかすつもりだったのか。
あのような事を入学式の日に正門前でされたのでは、もう大学に通えなくなってしまうではないか。
杳は心の中で思いっきり寛也に悪態をつきながら、学舎の陰を見つけてそこへ転がり込むようにして、座り込んだ。
行き交う学生達は、入学式の会場となっている講堂へと向かっていた。その道から少し離れたその場所は、人目から逃れるには丁度良かった。
人込みは未だに苦手だが、それでも高校時代に色々あったお陰で、随分慣れたと思う。これなら一人でも大丈夫だろうと、呼吸を整えていた時。
「どうかしたのかい?」
突然、背後から声をかけられた。
何げなく振り返って、杳は息をのんだ。