第2章
再会と決別
-2-
2/10
二人の住むマンションから、地下鉄の駅を1駅分だけ乗った先に大学の学舎はあった。
都心からは多少離れているため、緑の多い、勉学に励むには適した場所に思われた。
「へぇぇ。こんなとこに入学するのかぁ…」
感心して呟く寛也は、黙ってさっさと正門をくぐる杳に、危うく置いてきぼりをくらいそうになる。
「おい、ちょっと待てって」
「何だよ。もう用事は終わったんだから、帰って掃除でもしてろよ」
かなり、喧嘩腰の口調は人目を気にしてのことだった。
杳は、そこに立っているだけで、注目を浴びる。奇麗な容姿は、田舎であっても都会であっても同じように目立つのだ。むしろ、人の多い都会の方が騒がれやすい。だから、なるべく影を潜めていたいらしかった。
しかし、こんな風に言葉を交わす二人は、既に遠巻きに眺める視線にさらされていた。それを杳が好ましく思う筈がなかった。
それでも、いや、それだからこそ、寛也はここでやっておかなければならないと思っていた。
「まだ、済んでねぇよ」
言って、杳の腕を掴む。
「行ってらっしゃいの、キス…」
引き寄せて、抱き締めようとした。
が、それよりも早く、杳は身をかわす。それとともに、思いっきり寛也を突き飛ばした。
「うわあっ」
簡単に、後方に尻餅をついた寛也は、駆け出した杳の後ろ姿を、人込みの中にあっと言う間に見失った。
「おい…」
できるならば、誰も杳に言い寄ることがないように、ここでパフォーマンスを繰り広げようとしていたのだった。しかし、その行為は、さすがに杳に拒否されてしまった。
「仕方ねぇ…」
まだ明日もチャンスはある。仕方ないと立ち上がり、寛也はジーンズの埃を払った。
そして、回れ右をしてマンションに帰ろうとしたその時。
「…どこかで見たことがあると思ったら、君か」
聞き覚えのある声が背後から聞こえた。
振り返るとそこに、懐かしそうに笑みを浮かべる顔があった。
新堂紗和(しんどうさお)――葵翔と対をなす、もう一人の竜王だった。
二年前の竜達の覚醒時以来の再会だった。
「何で、お前、こんな所にいるんだよ?」
久しぶりの言葉も交わさず、寛也の口をついて出てきたこの言葉に、紗和は苦笑を浮かべる。
「うん、ちょっとね」
そこではっと気づく寛也。ここは大学の正門前だったと。
「まさか、この学校…」
「そういうことなんだけどね」
後ろ頭をポリポリと掻いて見せる紗和に、寛也は詰め寄る。