第2章
再会と決別
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 日を置かずして、大学の入学式の日はやってきた。

 初めての夜から連続して日干しにされ続けた寛也が、甘い夢を見ることを何となく諦め始めていた頃だった。

 買ってもらったばかりの真新しいスーツに袖を通した杳に、寛也は納得のいかない様子で呟いた。

「腑に落ちないよな」
「何が?」

 杳は寛也を振り返る。

「大して成績も変わらねぇのに、俺が大学落ちて、お前が大学生なんてよ」
「は?」

 杳は眉をしかめて、そっぽを向く。

「何言ってんの? オレ、成績、2桁だけど?」
「え?」

 杳の言葉に、寛也は驚く。

 確か、2年生の頃には赤点で、補習授業を受けていた筈だと思っていたが。そう言えば、3年になってそんな話は聞くこともなかった。

 いや、しかし、普通科進学高の400人近くいる同級生の中で落第ギリギリの者が、たった一年で2桁順位にまで上がるものなのだろうか。みんなが本気で受験勉強に励んでいる時期に。

「嘘だろ?」
「ま、順位なんてどうでもいいけどね。ここ、入りたかっただけだから」

 さらりと言い切る杳に、寛也は唖然とする。

 3年になって勉強に精を出していたとは思っていたのだが、そこまでとは思っていなかったのだ。

 寛也の心中など考えもしない杳は、さっさと支度を済ませると、ピッカピカの革靴に足を通す。

「じゃあ、行ってくるから」

 そう言って杳はくるりと寛也に背を向ける。その姿に見取れそうになって、寛也は慌てて追いかける。

「俺も付いていってやるよ」
「なんで?」

 思いっきり嫌な顔をされた。

 大学生にもなって、入学式とは言え、親の付き添いなんていらないと言って両親を追い返した杳である。寛也が同行することに良い顔をする筈がなかった。

 が、寛也も引く訳にはいかなかった。

 杳が東京へ出て来た本当の理由が、潤也の言う通りなのだとしたら尚更である。

「俺はお前の母さんから、お前のことを頼まれたんだからな。無事に大学まで送り届ける義務がある」
「何が義務だよ。理由つけて付いてきたって、ヒロ、門前払だよ」

 ちらりと杳は寛也の格好に目を向けてくる。スーツ姿の杳に比べて、寛也はTシャツにジーンズ姿だ。どう考えても、式典に参加する格好ではなかった。

「分かってるって。途中で変な奴にさらわれても困るし、送ってくだけだ」

 呆れながらも杳は寛也がついてくることを承知してくれた。用事が終わったら、とっとと帰って部屋の掃除を済ませることを条件にされて。


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