第2章
再会と決別
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「じゃあ、何かあったらちゃんと電話してくるのよ。ヒロくん、杳のことよろしくね〜」
玄関口で断固として帰らないと踏ん張る父親を引きずるようにして、杳の母がそう言ってドアを閉めた。
まだ何か泣き言を言う父親の声がドアの向こうから聞こえ、その声も次第に遠くなっていった。
「はあ…」
杳が大きくため息をついた。その杳に、背後から声をかける。
「お前の父さん、利かん気の強い所、お前そっくりだな」
呑気に言う寛也は、ジロリと睨まれた。
寛也が告知してしまって、薄々気づいていた母はともかく、勘ぐっていた父は逆上してしまった。
元々一人っ子な上に、問題を色々と抱えた子である杳を、父親は寛也が思っていた以上に溺愛していたようだった。
反対していた母親の意見を押し切って、中学生だった杳に大型のバイクを買い与えたのも、乗り方を教えたのも父親だったと言う。
なので、そんな杳にできた恋人――正確にはまだ杳から了承してもらっていない――が男だったと知れば無理もないだろう。
しかし、いずれは伝えなくてはならないことなので、寛也としてはいい機会だったと思っていたのだが。
「ばかヒロ。オレがいつヒロと付き合うって言った?」
杳は思いっきり怒っているようで、寛也は少し返答に困る。しかし、付き合うと言わないまでも、自分達の関係は既にそれに近いものと言うか、そのものと言うか。
「だったら杳、ちょっと聞くけどな」
寛也は杳に近づいてその肩に手を置き、顔を覗き込と、杳は不機嫌な顔のまま見上げてくる。
寛也は苦笑を浮かべながら。
「こんなこと、恋人しかしねぇだろ?」
そして、唇を重ねた。
「ちょ…ヒロ…」
逃げようとする杳の後頭部に手を回し、逃げられないように固定してから、杳の身体を抱き締める。
杳はすぐに抵抗をやめ、その緩んだ唇の隙間から寛也は舌を滑り込ませた。
体温の低い杳の口中に少し冷たさを感じて、寛也はその中を舌を使って熱く浸していく。
柔らかな舌に、自らのものを絡ませて、強く吸い上げる。
「ん…んん…」
鼻にかかる息遣いが、次第に艶を帯びてくる。
寛也は身体の熱くなるのを感じるとともに、下半身に熱が集中してきているのを感じる。
そのことを知って欲しくて、寛也は杳の腰に己のものを擦り付ける。びくっとして逃げようとする杳の腰に手を回して、身体を密着させる。
角度を変えて、唇をより深く重ね合わせ、杳を自分のものにしていく。
それ程長い時間ではなかったのだが、突然に杳が寛也の腕の中で崩れ落ちた。
「杳っ?」
我に返って、杳の身体を抱きとめた。途端、頬を張られた。
見やると、杳は潤んだ瞳で寛也を睨んでいた。
「ばかヒロ、サイテー」
言い様に突き飛ばされた。
そして、そのまま杳は自室へ飛び込んでしまった。