第2章
再会と決別
-1-
6/9
リビングには杳の両親が揃っていた。
寛也はまだあいさつも済ませていないことに気づく。
「すみません。お世話になります」
慌てて姿勢を正してペコリと頭を下げた。杳が横で吹き出していたが、ぐっと堪えた。
「まあまあ。取り敢えず座ってちょうだい。ヒロくん、おなかすいたでしょ?」
言って杳の母が勧めてくれた席は、黙ってテーブルについたまま寛也を睨むように見ていた杳の父の正面だった。
寛也は一瞬びくついたものの、それでもペコリともう一度頭を下げる。
「あの…俺…じゃなかった、僕、結崎寛也です。初めまして」
「ああ。いつも杳が世話になっているそうだね」
心臓が跳びはねるように脈打つのを感じた。もしかして、一般的に彼女の父親に会う時はこんな感じなのかと思ってしまった。いや、まさにそのものか。
寛也は背中に汗を流しながら、席につく。
御馳走が目の前に並べられる。杳の母はいつもおいしい料理を作ってくれるので好きなのだが、どうも目の前に座る人の視線が痛かった。
「さあ、召し上がれ。ヒロくん、おかわりあるから、たくさん食べてちょうだいね」
「はいっ」
杳の母はもうすっかり顔なじみだ。素直に元気良く頷いて正面を向くと、まだ杳の父が寛也を見ていた。
少し居心地が悪いと思いかけた時、横に座った杳が怒った声を出す。
「父さん、ガン見し過ぎ。ヒロ、脅えてるけど?」
分かってくれる杳が有り難かった。
その一方で、杳の一言で瞬時に相好を崩す父親。
「すまん、すまん。はる坊が好きになった相手がどんな奴かと思ってな」
寛也は思わず椅子から飛び上がるところだった。
もしかして、もしかして、杳との関係がばれているのだろうか。だから寛也をあんなにも睨んでいたのか。
「別にそんなんじゃないけど。ヒロとは同級生だし、翔くんとも仲いいし」
いや、最後の一言だけは違うと言いかけてやめる寛也。それなのに杳の母が口を挟んできた。
「いいじゃないの、はるちゃん。お父さん、妬いてるだけなんだから。可愛いはるちゃんにカレシができたって」
言って大らかに笑ってくれた。
その言葉に仰天した寛也の目の前で、杳の父はテーブルを叩いて立ち上がった。
「やっぱり彼氏なのか!?」
「違うってー」
即、否定する杳。そんなにきっぱり言わなくても良いのにと思ってしまい、つい寛也は口を出してしまった。
「俺はそのつもりなんですけど」
全員、そう言い切った寛也を見やった。三者三様の目付きで。
* * *