第2章
再会と決別
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 杳の前世であるあみやは竜の姿である者達を見極める能力を持っていた。そのまた前世であるところの綺羅も同じだった。それは普通の人間には持ち得ないものなのだ。

 それを何故、綺羅が、あみやが、杳が持っているものか、潤也はずっと疑問に思っていた。

 そもそも今の自分を竜として覚醒させたのも杳なのだ。そんな力を人間が持つものなのだろうか。それとも、杳は本当は――。

 綺羅が生まれた時、父竜はその赤ん坊に竜の力を見いだすことができないと言って、自分の子であることを否定した。人よりも強大な力を持つ竜の気を一片たりとも感じないのだと。

 だから、裏切ったと言って母女を殺したのだ。一言の弁明を聞くこともなく。

 父竜がそうまでして否定した綺羅に備わっていた力は、皮肉にも竜を封じる力だった。

 竜の存在を見極め、その力を封じ込めることのできる綺羅を、父竜は恐れ、怒り、果ては綺羅の命を奪わんとした。

 一体、母女は何者の子を産んだと言うのだろうか。今となっては、知る術もなかった。

「そう言えば去年の夏休みに、零兄さんのアパートに一緒に遊びに行って、杳兄さん、迷子になったんですよ。その時に何かあったのかも…」
「迷子?」

 それはわざとだと、潤也は確信した。

 迷子になってたまたま見つけたのではなく、恐らくはあの程度の目星をつけていて、見つけ出したのだろう。目的のものを。

「杳はもう見つけているのかも知れない。父竜の居所を」

 呟くように言った潤也の言葉に、翔の手元が震えるのが見えた。

「ダメだ。杳兄さんを止めなきゃ」
「翔くん、落ち着いて」

 人が動揺するのを目にすると、意外と冷静になれるものだと思った。

「これはただの憶測だよ。それこそ、こんな偶然、有り得ないからね。もし本当にそうだったとしても、もう少し様子を見てみようよ。ヒロも側にいることだし」

 最後の一言は余計だったが、敢えて付け加えた。

 父竜との戦いの時にはまだ子竜だった炎竜は、成竜になって確実にその力を上げている。多分、この自分よりも。そのことを、翔もいい加減に認めてやっても良い頃だろう。

「それに、君が動くのはまだ早いよ、天竜王」

 その呼び名に、唇を噛み締めるこの年下の少年は、何を思うのか。

 それでも、翔が最強なのだと、潤也は最後にその意味を付け加えた。


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