第2章
再会と決別
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「そうそう狙われたりしないって。それにあれから何の音沙汰もないじゃない。もう少し時間がかかるのかも知れない、父竜の復活には」
「でもね、杳兄さん」
「平気、平気。それに、ヒロも一緒なんだし」
ひらひらと手を振って見せながら杳の言った言葉に、翔はピクリと、頬を引きつらせる。
「…その方が心配だよ」
「は? 何?」
キョトンとして聞き返す杳に、翔は慌てて「何でもない」と繰り返すのが精一杯だった。
そして、人の気も知らないでと、そっと心の中で呟いた。
* * *
「って、あんまりだよね、杳兄さんのすることって」
寛也のいなくなった結崎家に、愚痴を言いに来た翔が同意を求めた相手は、潤也だった。
杳は東京へ出発する今日の今日まで翔に東京へ行くことを黙っていたのであるが、同じ家に住んでいて、どうやったら気づかれずに済むのか不思議だった。まさに、杳の用意周到さを思い知った。
潤也達にしても、同然知っているものと思っていたので、特に何も言うこともなく、結果として翔は運が悪いことに何も知らずに今日に至ったのだった。
「言ったら邪魔されると思ったんじゃないの? 力ずくでダメなら、泣き落としするだろ?」
「う…」
この竜王は、杳に対してひどく甘えん坊に振る舞うことが最近、多くなった。寛也と同じ立場に立ったのでは勝ち目がないとようやく悟ったのかどうなのか。
「それはともかく、問題は杳の考えていることだよ。いくら問い詰めても、本当のことを言わないんだ。あの頑固さ、どうなんだか。まったく…」
潤也は翔の正面に座して、そう言いながらため息をつく。
「早くに分かっていたら、僕も向こうの大学を受けてたんだけど」
受験シーズンも終盤のあの時期では、願書の提出すら間に合わなかったのだ。
やむなく寛也一人に任せてしまう結果となったが、やはり心配でならなかった。
自分も浪人した方が良かっただろうか。考えても後の祭りだった。
「杳には僕達の正体を見抜く力があるからね。東京方面に何かを感じたのかも知れない」
「そうですね…」
杳自身が「オーラ」と呼ぶものは、自分達竜が互いの力として見ているものとは若干異なるらしかった。杳の持つ、力を使っていない時であってもそれを見破る能力とは、果たして何なのだろうか。