第2章
再会と決別
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「東京の大学? そんなの聞いてないよっ!」

 温厚な性格と周囲の者に信じ込ませるのにどれ程の苦労をしたか知れないのに、思わず大声で叫んで、机まで叩いてしまった。

 高校三年生の冬を終えて、ひとつ年上の従兄の杳がいつの間にか受験をしていた東京の大学に進学するのだと翔に告げたのは、引っ越しをしようと言う日の朝のことだった。

 杳は、翔の前では勉強なんてしている姿を殆ど見せたことがなかった。その彼が進学を希望していたなどとは、まるっきり知らなかったのだった。

 そう言われてみれば、就職も逃していたのに、杳の両親は心配すらしていなかったのを思い出す。進学の予定だったのだ。うっかり見過ごしてしまったのは、呑気者夫婦だと思い込んでいたためである。

 それにしても、東京へ行くなどとはつゆも考えていなかった。

 迂闊だったのかもしれないと、今更ながら翔は自分を責めた。が、一言も言ってくれなかった杳もひどいと思う。

 それなのに、翔に返してきた杳の言葉は余りにもそっけないものだった。

「オレの進路、翔くんに相談する必要はないだろう」
「えっ…それは…」
「それに、オレと入れ替わりに澪兄さんが帰って来るし、丁度いいじゃない」

 杳はそう言って笑った。

 澪は翔の兄である。

 二年前の火事で両親を失った翔はまだ未成年でもあるし、父の弟の家であるここに引き取られた。兄の澪はその時東京の大学に行っていたのである。

 しかし、就職難の折から、要領の悪い彼は落ちこぼれ、この春から取り敢えずこの家にやっかいになることになっていた。再起を図るらしい。

「そうじゃないよっ。第一、今はいつ父竜が襲ってくるか分からない時だし、危険だよ」
「大丈夫だって」

 平然とした口調で杳は返してくる。

 あれは昨年の秋のこと。神器である勾玉を4つも持ってきて、おまけにその保有者の巫女達まで連れてきて保護を頼んだ張本人が、何を言うのかと返してやりたかった。

 勾玉は、別名竜の勾玉とよばれ、はるか昔、巨大な一体の竜――父竜を封印した。竜神達の父でありながら、災いを呼び、人身を脅かす竜だった。

 その勾玉を狙っている輩が出現したのだった。勾玉を守る巫女達が襲われ、その彼らを翔の元へ連れてきたのは杳自身だ。

 勾玉が翔達の管理下にあると言うことは、その身内である杳もどこで襲われるか知れたものではない。

 理由はそれだけではない。

 巫女達の中心である竜王の宮の巫女であったあみやは、杳自身なのだから。


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