第1章
巣立つ雛
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 真夜中、小さな物音に目を覚ました。

 何だろうかとベッドから起き出して部屋を出ると、キッチンからチラリと明かりが漏れたのが見えた。

 誰かが起きたのだろう。何だか自分も喉が乾いていることに気づいて、潤也はカーディガンを肩に引っかけてキッチンへ向かった。

 そこに、杳がいた。冷蔵庫からお茶の入ったペットボトルを取り出して、自分専用のマグカップに注いでいる姿が暗がりの中に見えた。

「杳?」

 小さく声をかけると、振り返る。暗がりの中で顔色は分からないが、普段どおりには見えた。

「ごめん潤也、起こしちゃった?」
「ううん。僕も喉が乾いて目が覚めただけだよ」

 相手には見えないだろうが、笑顔を浮かべてみせる。

 潤也の言葉に杳は冷蔵庫の中へしまいかけたペットボトルをそのまま潤也に差し出した。それを受け取って。

「具合どう? 少しは楽になった?」

 潤也は食器乾燥機の中から自分のコップを取り出すと、お茶を注ぎながら聞く。

「うん、もう大丈夫。心配なのはむしろ病院の方なんだけど」

 入院中の身でこっそり抜け出してきたのだから、それなりに罪悪感はあるのだろう。潤也は苦笑しながら言う。

「ちょっとした騒ぎになっているらしいけどね。君のお母さんに電話したら、杳をよろしくって。僕とヒロと間違えてるのかな」

 電話口の声を聞いただけでは、余り面識のない潤也では寛也との区別もつくまいと思った。そんな潤也に杳はくすくす笑い出す。

「間違えないと思うよ。だって潤也とヒロとじゃ、全然違うじゃん」
「同じだよ。一卵性双生児だからね。指紋まで一緒だよ」

 言って潤也はお茶をぐいっと飲む。喉に染み渡る冷たさが心地よい。

「でも、二人とも全然違う色のオーラを持ってる。厳しいけど優しい風のオーラの潤也と、激しくて火傷しそうなくらいの情熱を持つヒロのオーラと。絶対に見誤らない」
「それは君の話だろ」
「そりゃ、形として見えているのはオレだけかも知れないけど、他の人にも感じられるんじゃないかな。だから、誰も二人を間違えない。今も昔も、風の神として、火の神として二人はいるんだから」

 そう言った杳の横顔が、一瞬別の気配を漂わせたように見えた。

 それはほんの一瞬のことだけで、瞬きひとつする間にするりと消えうせた。

 しかし、確かに目にしたもの。

 この気配は――。

「さて。もう少し寝ようっかな」

 大きく伸びをする杳はもう普段どおりで、きっと寛也の竜の力が効いたのだろう。この効果があとどれくらい持つものなのか、自分にも見当がつかない。

 本当であればもうとっくに命が尽きているものなのだろう。杳はそのことを知っていて、だから何かをしようと考えているのかも知れない。

 杳のやりたかった事は何だろうか。考えて、ふと浮かぶこと。

「東京へは、何しに行くの?」


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