第1章
巣立つ雛
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 制服は準備できたが、外出などどう考えても許可される訳がなかった。

 そこで当然のように、こっそり病院を抜け出した。点滴の針は自分で引き抜いて。

 廊下に出て振り返ると、思った通り面会謝絶の赤い札が掲げられていた。ついでに重病患者の印までつけられていた。が、そんなことは全く意に介した様子もない母の後について、杳は平気なフリをして病院を抜け出した。

 さすがに、ナースステーションの前を通る時は、びくついたものだったが。

 何とか見つからずに病院を抜け出すことに成功した。外は、気持ちの良い青空が広がっていた。卒業式日和だとのんびり考えてしまう自分が何故かおかしかった。

 卒業式は10時から。いくら何でも昼までには終わる。別れを惜しんで帰る時間を遅らせる者もいるだろうが、大半は昼には帰路に就く。在校生も全員が参加することもないので、杳が学校に到着した頃には、校内に人影は殆ど見当たらなかった。

 小高い山の斜面に建つ住宅区。その中にある学校では駐車場もなく、自動車で送ってくれた母親は、終わったら電話をするように言い置いて、さっさと帰ってしまった。

 3日間も意識不明で、つい先程目を覚ましたばかりの一人息子が、途中で気分が悪くなって倒れたりするかもしれないとは、まるっきり考えていかい様子だった。

 そんな母を苦笑で見送って、杳は校門をくぐった。

 思えば、入学式の日、3分の2だけ出席すれば良いとだけ考えていた。1日の大半をここで過ごすなど、杳にとって苦痛としか考えられなかった。

 その学校に、気づけば毎日きちんと通うようになって、多少体調が悪くても行きたいと思うようになった。

 相変わらず友達と呼べる人は少ないままだったが、それでもあちこちから歓迎されているのは感じていたし、不本意ながらも色々な行事に引っ張り込まれた。

 困惑しながらも、それでも楽しかったのだと思う。思い出すら思い出せない中学時代と違って。

 校庭では部活動の後片付けをしている下級生達の姿がちらほら見受けられた。その他にはすれ違う生徒も先生の姿もなかった。さすがに夕方近くなると仕方ないと思いながらも、何となく、足は体育館の方へ向かっていた。


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