第1章
巣立つ雛
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暖かな日差しがまぶしくて、目を開けた。
白い壁と白い天井、静かな機械音が耳に優しく響いていた。
見覚えのある作りの部屋に、すぐにそこが病院であると杳は気づいた。
どうしたんだろうかと、ぼんやりした頭のまま、明るい日差しの差し込む窓に目を向ける。
きんと晴れ渡って、少しだけ青さを増してきた空が見えた。
左腕に繋がれている点滴に、ふと気づく。
ああ、そう言えば寛也を見送った後、玄関から上がろうとして気分が悪くなったことを思い出す。何か、吐いたようにも思った。
横になっていても目が回るような感じと独特の頭痛に、貧血を起こしていると気づいた。
また倒れて、今度は病院へ運ばれた――そんなそころだろう。
以前にも増して、ここのところ体調のすぐれない日が増えていた。
そう長くは持たないだろうと感じて、もうどれくらい経つか。その度に寛也が自分に何らかの力を注いでくれていることは分かっていた。その間隔が、次第に短くなってきていることも。
もう、限界なのだろう。あと、どれくらい持つだろうか。
本当は悠長に卒業を待つつもりなどなかったのだが、それでも今の一時を大切にしたいと思ってしまう自分がいた。
元気だった頃は失って惜しむものなど何も無かった筈なのに、寛也と出会ってから、失いたくないものばかりだと気づいた。
だから、延ばし延ばしになっていた。それが災いしたのだろうか。
あと少し、あと少し。
どれくらいの時間があれば足りるのか分からないが、まだここで終わらせる訳にはいかなかった。
杳はそう思って起き上がろうとした。
その時、ベッドサイドに見慣れない袋と細長い小箱が置いてあることに気づいた。
杳が起き上がらなくても手の届くところに置かれたそれは、奇麗にラッピングされたものと、無地の包みにくるまれただけのもの。
何だろうかと手を伸ばしかけた時、スッと病室のドアがスライドして開かれた。
「あら、起きたの?」
そこに、手に花を差した花瓶を持って、母が入ってきた。
「母さん…オレ…」
「びーっくりしたわよ。美容院から戻ってみたら、杳ったら玄関で倒れてたものだから。しかも血みどろで」
「血…?」
多分、潤也と紗和の術で塞がれていた傷口が綻び始めているのだろうと。倒れた時に何かを吐いた気がしたのは、血だったのだ。