第1章
巣立つ雛
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突っ込む潤也は、呆れ顔で続ける。
「そうなんだよね。問題はヒロと杳じゃ、どちらもストッパーにはなれないことなんだよ。二人揃って無謀で考え無しなんだから、困ったものだよ」
「お前なぁぁ」
思わず立ち上がる寛也を、人差し指で指さして。
「ヒロの方が年上なんだから、少しは冷静になってよ」
「年上って、同い年だろ」
「そっちじゃないよ」
言われて寛也はチラリと浅葱を見て、仕方なく座り直す。
浅葱達竜の宮の巫女の転生者である4人が自分達に保護を求めてきた時、彼らは杳をあみやであるとは紹介しなかった。つまり、一応、秘密なのだ。
杳が知られたくないと彼らに言ったのだろうが、杳は寛也には自分から名乗ったことがある。と言うことは、知られたくない相手が他にいるということだった。多分――。
どちらにしても、公然の秘密になっていた。
そして、寛也達には秘密にしたいことがもうひとつあった。
あみやは綺羅であると言うことだった。
父竜とのいさかいの原因となった、竜達の一番下の妹である。勿論、綺羅には何の罪があるではないのだが、それでも、そのことを杳に知られたくないと言う気持ちが二人にはあった。
それと同時に、寛也にすれば、あみやも綺羅も天竜王である天人――今の翔のパートナーであったことが最大の難点だった。
杳はあみやや綺羅とは性格も性別も事なる別人であると言えなくなもないが、その能力も、持って生まれた性質も綺羅のもので、明らかに転生者と言えた。
寛也からすればあみやのことは仕方ないにしても、綺羅のことだけは杳には思い出して欲しくないことだったのだ。恋敵の翔と、そういう関係であったことなど、断固として。
だから、杳に通じている浅葱にも知られたくはなかった。
「まあ、ヒロが気を付けない訳ないか。杳だものね」
そう言った潤也を、浅葱はどこか納得のいかない顔で見やっていた。