第1章
巣立つ雛
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「ええー、東京ですか?」
夕飯の時間になってようやく帰って来た浅葱が驚いた声を上げた。
浅葱は最初のうちこそ結界を張った家の中で生活をしていたが、よくよく考えると学校くらいは通えるだろうと言うことになった。
翔と同い年であるので、学校では同じクラスで側に翔がいれば下手な連中には手出しができないだろうと考えられたのだった。
なので、ほんの少しだけ潤也が術をかけて転入学の取り計らいをし、浅葱は晴れて高校生となった。
ただ、中学校を出てすぐに旅に出ていたので、高校2年生の2学期途中入学では浅葱自身、かなり苦労するところはあったようだった。
それから半年弱、ようやく最近になって学校にも勉強にも慣れた様子で、今では部活動にも参加していた。
「おうよ。予備校に行くなら、やっぱり都会の方がいいだろ?」
「そりゃあ…」
県内にある予備校の数には限りがある。ましてや市内になど皆無で、自分の学力に見合った学校をと言うのなら神戸か大阪くらいには出た方が良いのかも知れない。が、東京とはまた遠くに行くものだと、浅葱は目を丸くする。
「ま、俺がいなくて身辺心もとないだろうが、ジュンもいることだし、大丈夫だろ?」
寛也は浅葱の頭をポンポンと叩いて言う。一応、赤色の勾玉を持つ「ひな」の守護竜は寛也の炎竜であったので、ひなの転生者である浅葱のことを少しは気にしている様子だった。
その寛也を柔らかく笑いながら見上げる浅葱。
「大丈夫ですよ。こちらには翔くんもいますし。むしろ後先考えずに敵に突っ込んで行く寛也さんの方が心配です」
「言ってんじゃねぇよ」
さらりとこんなことを言う浅葱の頭を、寛也はガシガシとかき回した。
その横で潤也が大きくため息をついた。
確かに寛也の方が心配だった。あと、他に何か教えなくてはならない事はなかっただろうかと考えていると、浅葱が思い出したように聞いてくる。
「浪人と言えば、杳さんはどうするんですか? 就職…じゃないですよね?」
そう言えば、寛也達が知らなかったものを、浅葱が知る筈もなかった。
「杳は進学だって。東京のナントカって大学らしいよ」
寛也に聞かされた通りに言う潤也。その潤也を浅葱は驚いたように見やる。
「え…それじゃあ…」
「いつの間にかね、こっそり受験していたらしい。本当に秘密主義なんだから」
苦笑まじりの潤也と、その反対に上機嫌の寛也を見比べる浅葱。
「それで、仕方ねぇから俺がついて行ってやることにしたんだ。あいつ一人だと、また何かとんでもねぇことに首を突っ込んじまいそうだしな」
「それはヒロも同じだろ」