第7章
過去、そして未来
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ほんの数秒、触れるだけの口づけをして、杳は翔の腕を放した。
驚いてポカンと口を開けたままの翔に、杳はまた少し笑んで。
「これで終わりにしよ?」
「杳兄さん…」
終わりとは、言葉どおり、この関係の終焉を意味するのだろう。ほんの、一晩だけの関係。
拒否したくて、翔は杳の手を取った。が、その手はやんわりと外される。
「翔くんのこと、大好きだよ。誰にも渡したくないくらい。でも、それ以上にオレは…」
言いかけて、言葉を切ると、また少し笑みをこぼす。
「オレ、みんな好きだけど、でも、これからは一人の人だけ見ていたいと思ってる。それは、翔くんじゃないんだ。…ごめんね」
何故謝罪の言葉が出てくるのか、分からない。
目の前の、自分よりほんの少しだけ背が高い人。本当に、もう少しで追いつけると言うのに、その前に別の奴にかっさらわれてしまうのだ。どれだけ力ずくで手に入れようとしても、決して手に入らないのだ。
それでも、翔は俯き加減になりそうな顔を、ぐっと上げた。
「もう一度だけキスして。そうしたら、杳兄さんのこと諦めるから」
きっと、もっと好きになるだろう。
柔らかく重なる唇を感じながら、そっと杳を抱き締めた。
* * *
「あれ、いいの?」
寛也が食い散らかした皿の残り物を、潤也は盛り付け直していた。これはどんな魔法かと思われるくらいに上手に配置されていく。そして、空いた皿は座卓の下に置いてから、テレビのリモコンを弄ぶ寛也に声をかけた。
「あれって…何が?」
とぼけたように聞き返すだけで、寛也は顔も向けてこない。
「ヒロは、ああ言うの許しちゃうんだ?」
潤也は呆れて、今し方襖の陰からこっそり覗いて見た、翔と杳のキスシーンのことだと説明を加える。それなのに、寛也は平然としたままだった。
「許すも何も、杳が自分から向かって行ったんだ。邪魔なんかできるかよ」
「心、広いね」
「まぁな」
言いながらも寛也の見ているテレビは、番組がくるくる変わっていていつまで経っても定まっていなかった。そんな様子に、本心は落ち着かないのだと、潤也はふと気づいた。
それでも寛也は杳が自分の元から離れることはないと信じているのだ。その確信があるから、こんなことも許せるのだろうか。
かつての戦からは考えられなかった。もし、その昔、綺羅に告白された戦に今の寛也くらいの度量があったなら、自分達の運命も変わっていただろうか。
ついそんなことを考えてしまって、潤也は自嘲ぎみに笑みをこぼす。
「何だよ、気色悪ィな」
「ごめん、ごめん。戦も大人になったんだと思ってね」
言うと、寛也は嫌そうな顔を見せる。一体この人物は、寛也なのか戦なのか。
どちらにしても、成竜になったばかりの彼は多分、これからも成長し続けるのだろう。
戦が生まれた時のことが、今ではもう幻のように潤也には思われた。
* * *