第7章
過去、そして未来
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やれやれともう一度ため息をついて、ふと思い出す。勾玉の影響で、杳には術が効かないのではなかっただろうか。
身体の治療を行おうとした時に、施す全ての術を跳ね返してしまったのだ。かつて翔が記憶を封じた術さえ、自力で解いてしまった杳なのだ。今更翔の術が効くことがあるのだろうか。
そう思って翔を見やると、杳を見ながら寂しそうにしている横顔が目に入った。
真実はどちらにあるのだろうか。多分――。
「なかったことになんか、できないよ」
真実はそうだと思った。潤也の言葉に驚いて見上げてくる翔。
「でも、杳は許してくれている」
あみやも綺羅も、目の前のことから逃げ出したが、杳には側に寛也がいる。だから、きっと大丈夫。悔しいが、それが現実なのだ。それで杳がいつまでも笑顔を見せてくれれば良いなんて、善人よがりな考えではあるが。
それでも、今度こそと願う気持ちに偽りなどない。
「何やってんの、二人とも。早く来ないとヒロに全部食べられるよ」
部屋から姿を消した潤也達に気づいて、杳が襖の向こうからひょっこり顔を出す。その後ろから寛也が、手にチキンを持ったまま顔を見せる。
「お前ら、何か怪しいよな」
「ええーっ?」
寛也の言葉をどう取ったのか、杳は驚きの声を上げ、慌てて翔の腕を掴んで引き寄せた。
「ダメだよ、潤也には渡さないから」
ぐいっと抱き締める。杳の腕の中にすっぽり収まってしまった翔は少し情け無さそうな顔をしていた。それを見て、吹き出す潤也。
「大丈夫だよ。君の翔くんを取ったりしないから」
信用がないのか、そう言っても潤也は杳に睨まれたままで、仕方がないので肩を竦めて居間に戻った。
戻ってみて、仰天する。あれだけ頑張って作ったものを、まだ会も始めていないのに食べ散らかされていたのだ。犯人は、明確だった。
「ヒローッ、一体どれだけ食べてんだよっ!?」
「えっ、えっ? 俺?」
寛也は潤也に首根っこを掴まれて、引きずられる。
「ちょっと待て。俺一人で食った訳じゃねぇって。杳のヤツも…」
「大半はヒロだろっ。人の所為にするんじゃないっ。だいたい、人が料理をしてるのに、いつまでもダラダラ寝てばかりで手伝いもしないで、その癖、食い意地ばっかり張ってっ」
「まて、まて、ジュン、ちょっと待てーっ」
ちゃぶ台を引っ繰り返すことはないだろうが、仲良さそうに喧嘩をしているように見える二人を、杳は面白そうに見やっていた。その腕の中で、翔が居心地悪そうに身をひねった。
「杳兄さん…そろそろ放してよ」
杳の腕の中にいて、本当は嬉しいのだが、どちらかと言うと抱き締められるよりも抱き締めたいと思った。そんな翔に少し笑ってみせて、杳は腕の力を緩めた。
「翔くん…」
そのまま逃げ出そうとする翔の腕を咄嗟に捕まえる。
「え…」
柔らかく、唇に触れてくるもの。